3つの「10倍」で1000倍の容量を実現
今日は、我々が昨年発表した「Technology Vision 2020」を軸に、2020年に向けたモバイルネットワークの技術動向とノキアの取り組みについてお話いたします。
まずTechnology Vision 2020でノキアは、2020年までに「1人1日あたり1GBのデータ通信が可能なネットワーク」を実現することを目標に掲げました。これはノキアのワールドワイドでの目標と捉えていただければと思います。
この2020年のモバイルネットワークに必要とされる要件として我々は、(1)1000倍のネットワーク容量、(2)0.01秒以下のネットワーク遅延、(3)ネットワーク制御の自律化、(4)消費電力のフラット化、(5)テレコム・インフラのクラウド化、(6)ネットワークサービスのパーソナル化の6つを掲げています。これらを順に説明していくことにしましょう。
その前に、2020年に実現する次世代モバイルネットワークというと、どうしても5G(第5世代移動通信システム)を思い浮かばれる方が多いと思います。しかし我々のビジョンは5Gとイコールというわけではなく、我々の5Gに向けた研究開発と一部重なる形で2020年までに実用化が見込まれる技術を想定したものと考えて下さい。
その意味で、(1)のネットワーク容量を1000倍にするという目標も、5Gでは1万倍と言われていますから、我々の方が近い将来を視野に入れた話になるわけです。この1000倍という容量が必要になる要因としては、動画コンテンツの普及や高精細化、ウェアラブル端末などの新たなデバイスの登場などが挙げられます。私は、クラウドが広く普及することで膨大な数のデバイスがデータセンターと大量の情報をやり取りするようになることが、非常に大きなインパクトを及ぼすと見ています。
では、この1000倍の容量はどのようにすれば実現できるのでしょうか。ノキアでは、システムの効率、周波数帯域、基地局密度の3つのファクターをそれぞれ10倍にして、これらを掛け算することで1000倍が達成できると考えています。
図表1 1000倍のネットワーク容量[画像をクリックで拡大] |
最初の「10倍の効率」は純技術的なテーマであり、LTEの効率を限界まで向上させることで可能になると見ています。例えば現行のLTEに実装されている空間多重技術2×2MIMOを、アンテナ数を倍の4対にした4×4MIMO、さらには8対の8×8MIMOにグレードアップすることで、容量を2倍、4倍に増やすことができます。個々のユーザーに無線リソースを効率的に割り付けるスケジューラーの改善や、基地局間で連携をとることにより、さらに効率を上げることが可能になります。
次に「10倍の周波数」ですが、一番分かりやすいのは、移動通信で利用できなかった高い周波数帯を技術開発により使えるようにすることです。我々は5Gではミリ波帯のかなり高い部分の利用を想定していますが、それ以前にやや低い周波数を使って1000倍の容量が実現できないか、検討しています。
既存の周波数の再編や他の用途で使われている帯域を共用することも、移動通信に使える周波数を広げる有効な手段です。周波数の割当は行政が決められることなので、我々ベンダーにはいかんともしがたいところがあるのですが、既存周波数帯の有効利用という観点からの1つのアイディアとして当社からもASA(Authorized Shared Access)という仕組みを総務省に提案させていただきました。これはすでに地域を限って他の用途で使われているような周波数を移動通信と効率的に共用できるようにするもので、米国や欧州で実用化が進められています。
この他にも免許が不要なWi-Fiの周波数をLTEで利用するシステムの開発も行われていますし、日本でも導入が始まったキャリアアグリゲーション(CA、2つの周波数帯を束ねて高速化を実現する技術)も広帯域化により周波数利用効率を向上させる側面を持っています。これらを組み合わせれば、「10倍」はなんとか達成できるのではないかと考えています。
最後の「10倍の基地局密度」は、ピコセルやマイクロセルと呼ばれる小型の基地局を大都市の高トラフィック地区に緻密に打つことで実現できると考えています。ここで問題になるのが基地局のカバレッジがオーバーラップすることで、電波干渉が大きくなり、容量が稼ぎ難くなることです。これを解決する技術としてピコセル/マイクロセル基地局と既存のマクロ(大)セル基地局の干渉を軽減するeICIC(enhanced Inter-cell Interference Coordination)があります。また基地局間で協調して干渉を有効な信号に変えるCoMP(Coordinated Multipoint)などが開発されています。
中でもノキア独自のCoMPは、上り(端末からの送信)に適用することで高い効果を得ることができます。最近、スポーツ観戦の際などにスマホで取った写真をクラウドにアップロードするという使い方がされるようになっていますが、スタジアムを複数のマイクロセルでカバーして上りにCoMPを導入することで、こうした利用形態を高速化できます。例えば2020年の東京オリンピックの施設に導入すれば、非常に大きな効果が得られるのではないでしょうか。