シスコシステムズは2012年10月23日、2013年度(2012年8月~2013年7月)の事業戦略説明会を開催した。
会見の冒頭、ビデオで登場したのは米シスコCEO兼会長のジョン・チェンバース氏である。同氏は、シスコ日本法人が2012年度、「多くの国がマイナス成長となるなか、30%以上の成長を遂げた」ことに言及したうえで、その成果を称えるため2年連続で会長賞を授与するとともに、日本法人社長の平井康文氏をシニアバイスプレジデントに昇格させたことを紹介した。「シスコジャパンの功績は他の国と比べて際立っていた」(チェンバース氏)。
平井氏は、日本法人の好調の要因について、「スマートフォンの急増を背景にサービスプロバイダー事業が牽引したのも事実だが、すべてのセグメントがバランスよく成長できた」と説明している。
「インターネットにつながっているのは1%に過ぎない」
新年度の事業戦略の目玉として披露されたのは、「Internet of Things(IoT)」への取り組みである。
「あらゆるモノのうち、インターネットにつながっているのは1%に過ぎない。残りの99%はインターネットはつながっていないが、このオポチュニティのことを我々は“Internet Everything”と呼んでいる。シスコはInternet Everythingを実現することを強く約束する」と平井氏は語った。
シスコが考えるIoTの世界 |
IoTとは、あらゆるモノがインターネットにつながる世界のこと。日本では「M2M」(Machine to Machine)という言葉のほうが馴染み深いかもしれないが、同社専務執行役員の木下剛氏は、「IoTというとモノがインターネットにつながると解釈されることが比較的主流だが、シスコの考えるIoTとはモノとコトがつながることによる価値創造だ」とした。M2Mだけでなく、さらにM2H(Machine to Human)も融合・連携した新しいインターネットの世界をシスコではIoTと定義している。
木下氏によれば、IoTの実現に向けては2つの技術的課題がある。1つは「スケール」で、この課題を解決するためにIPv6が登場した。
もう1つは、ネットワークに求められる機能の「パラダイムシフト」だ。「インターネットはこれまで常時接続を前提に、いかに安定的に利用できる環境を保証するかに注力していた。しかしセンサーは必要なとき以外は“寝ている”。IoTの世界になると、常時接続していないのが正常な状態になり、ネットワークの挙動が変わってくる」(木下氏)。
このパラダイムシフトに対応するため、シスコでは10年近く前から研究開発を進めてきたという。その一例として、木下氏が挙げたのはRPL、6lowpan、CoAPといったプロトコルの開発と標準化への取り組み。また、IoTのための新しいコンピューティングのコンセプトとして「フォグコンピューティング」が重要になるという。
シスコの考えるIoTアーキテクチャ。分散型インテリジェンスである「フォグコンピューティング」が大きなポイントの1つになっている |
「フォグコンピューティングとは、ルーターとコンピューティングを融合することで、ネットワークのエッジでクラウドコンピューティングをやっていこうというコンセプト。例えば、街単位で分散処理を実行すれば、必ずしもクラウドに行かなくても、気象予測などができる」(木下氏)
こうした研究開発の結果、「技術については一定の目途がついた。そこで今は、技術をいかに使ってもらうか――。IoTの実用・普及に取り組んでいる」そうだ。
そして今回発表されたのが、「Internet of Things(IoT)インキュベーションラボ」の開設だ。日本本社オフィス内に11月に設立される。同ラボでは、様々な企業、学術研究機関、政府などと連携を図りながら、IoTの具現化を目指していくという。
IoTインキュベーションラボの主な活動内容 |