SPECIAL TOPIC船の自動運転で「海のDX」を目指すスタートアップ 衛星通信で広がる水上モビリティの可能性

「海のDX」「船舶のロボット化」を掲げ、小型船舶向け自律航行プラットフォーム「AI CAPTAIN」を開発するエイトノット。センサーなどを小型船舶に後付けするだけの手軽さが特徴で、すでにフェリーや観光船などへの導入が進んでいる。代表取締役CEOの木村裕人氏は、こうした船の自動運転を世界中で実現していくうえで、Starlinkをはじめとする衛星通信への期待も大きいと語る。

エイトノット 代表取締役CEO 木村裕人氏

観光地や離島を結ぶ旅客船、漁業を支える漁船、釣りやマリンレジャーに使われるプレジャーボート――。海に囲まれた日本にとって、船は我々の暮らしや経済を支える重要なインフラと言っても過言ではないが、国内にある船の大部分を占めるといるのが、総重量が20トン未満の小型船舶だ。

小型船舶は利用頻度が高い分、事故やトラブルも少なくないのが実情である。内閣府の「令和4年交通安全白書」によると、小型船舶の事故件数は減少傾向にあるものの、2021年度の件数は1527件にのぼった。主な事故原因の1つは、周囲の確認不足や操作ミスといったヒューマンエラーだという。

自動運転で水上交通の課題を解決

こうした小型船舶を巡る社会課題の解決に挑んでいるのが、小型船舶向け自律航行プラットフォーム「AI CAPTAIN」を開発するスタートアップ・エイトノットだ。同社は2023年9月、東京都が推進する「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業」の開発プロモーター(東京都と連携して次世代通信技術などを活用した製品・サービスの開発を行うスタートアップ企業を支援する事業者)であるキャンパスクリエイトの支援先スタートアップに選定された。

エイトノットの共同創業者で代表取締役CEOを務める木村裕人氏は、小型船舶に初めて乗った時の経験が起業につながったと語る。「ADAS(先進運転支援システム)が搭載されている自動車とは異なり、船の操縦には個人の技量や経験が必要です。船の運転に不安を抱いている方々をサポートしたいという思いから、船の自動運転技術の開発にたどり着きました」

また、離島に暮らす人々にとって、フェリーは本土への重要な移動手段となっているが、採算性の問題などからフェリーの航路再編・廃止が相次いでいる。「いつまでも人手に頼っていては、水上交通の維持は難しいです。自動運転技術によって、こうした問題を解消できるのではないかと考えました」(木村氏)

広島・大崎上島町へ移動手段と宅配サービスを提供

AI CAPTAINは、既存の小型船舶にセンサーや制御ユニットなどを後付けするだけで自律航行が実現するプラットフォームで、ほぼすべての小型船舶に設置可能だという。また、AIが目的地までの安全かつ最適なルートを自動生成するほか、海上の障害物や他船を検知・回避しながら自律航行したり、離着岸も自動で行う。これにより、船員の負荷を大幅に減らすことができる。

AI CAPTAINの特徴

今年1月から3月にかけては、広島・大崎上島町と竹原港を運航する小型船舶にAI CAPTAINを搭載し、トライアル運航を実施した。従来は運航していない早朝・夜間の時間帯に、島民へ移動手段を提供する試みだ。

約6700人が暮らす大崎上島の人口は、減少の一途をたどっている。「より気軽に本土を行き来できる環境を整えることが、人口流出の抑制や若年層の定住につながる――。こうした課題意識のもと、このプロジェクトはスタートしました」と木村氏は説明する。

また、大崎上島の北西に位置する生野島は、島内に店舗が少ないという問題を解消するため、生活協同組合ひろしまと連携。AI CAPTAINを搭載した小型船舶を用い、本土から生活必需品や生鮮食品を住民へ配送する取り組みを実現した。

広島・大崎上島町で自動航行船による試験運航を実施

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