<連載>欧州ICTレポートアゼルバイジャンのICTの表と裏

アゼルバイジャンは、豊富な原油、天然ガス資源を背景に飛躍的な経済発展を遂げた。

ICT分野においても、デジタル経済の成長の加速化、DX化による経済の多様化及びICT分野での国際競争力強化を図るべく、2021年にはICT政策を所管するデジタル開発運輸省が設立された。

その結果、ICTは市民生活の中にも溶け込んでおり、まずは、以下にいくつかの例を挙げてみたい。

公的機関への申請・届け出

ASAN(アサン)と呼ばれる独自の電子申請システムでスマートフォンや街角に設置されているキオスク端末から400を越える行政手続きが簡単に行える。

ASANの導入によって、手続きの日数短縮が図られ、恣意的な運用や汚職の防止といった副次的効果も現れている。

交通取り締まり・犯罪捜査

随所に設置された監視カメラや自動車ナンバープレートに埋め込まれたICタグにより摘発が自動化されている。また、パーキングチケットもスマートフォンを通じて購入。

支払い

99%の店舗でクレジットカードでの支払いが行える。クレジットカード支払い端末がない店舗や個人間の支払いは、銀行のアプリを通じて、相手のクレジットカード番号に宛てた送金が可能(Card to Card)。

また、公共交通機関の利用も現金は使用できず、専用のICカード又はアプリで表示させたQRコードを利用する。

国全体としても、首都バクーにおいて、携帯電話や公共機関、その他私企業から収集したいわゆるビッグデータを活用した「デジタル・ツイン(Digital Twin)」計画や、かつてのシルクロードが東西の交易を結んだように、アゼルバイジャンをアジアと欧州のデータ通信の交易点として位置づけ、中央アジア・コーカサス及び南アジアを含む広範な地域に光ファイバーを敷設し地域のデジタル化を促進することを目指すデジタルシルクウェイ構想(Digital Silk Way)を主導している。

このようにアゼルバイジャンでは官民を挙げてICTの強化に取り組んでいるが、筆者の個人的な考えとあらかじめお断りした上で述べれば、急速なICT化に対して法整備やセキュリティ対策が追いついていないとの印象を受ける。

例えば、ビックデータの活用については、データ収集の際にその利用範囲などが曖昧であったり、市民の間においても個人情報保護という考えが希薄であったり、セキュリティについても、小規模なサイバー攻撃は増加傾向にあり、それに対する捜査能力も決して高くはない。

中でも2025年8月に発生したアゼルバイジャンのインターネット・バックボーン企業に対するサイバー攻撃では、半日程度であったが国内のインターネットがつながりにくくなり、一部の社会インフラにアクセスしづらくなるなど、インターネットに依存するアゼルバイジャンの脆弱性を垣間見ることとなった。

2025年11月にはITU世界電気通信開発会議(WTDC-25)も首都バクーで開催され、2024年に開催された第29回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP29)に続き、世界からもますます注目を浴びることから、今後のアゼルバイジャンのICTの発展に注目していきたい。

※本記事は筆者の個人的見解であり、日本国外務省、在アゼルバイジャン日本国大使館の見解を示したものではない。

土屋泰司(つちや・たいじ)

在アゼルバイジャン日本国大使館二等書記官。広報文化センター長、経済(運輸・通信)担当。2024年4月から現職。最近は美味しいアゼルバイジャン料理とトレーニングのための減量の両立に悩む

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