「OpenRoaming対応の公衆Wi-Fiを導入したい」というニーズが日本全国で高まっている。
OpenRoamingとは、グローバルでシームレスに利用できる公衆Wi-Fiの世界共通基盤だ。従来の一般的な公衆Wi-Fiは、提供事業者ごとに登録が必要で、また通信路が暗号化されていないケースがあるなど、セキュリティ面での不安も少なくなかった。
こうした課題を一挙に取り払ったのがOpenRoamingである。一度登録すれば、世界中のOpenRoaming対応Wi-Fiスポットに自動で接続可能。しかも、高セキュリティで安心して利用できる。
欧州と比べて日本ではOpenRoamingの普及が遅れていたが、訪日観光客が再び増加するなか、状況は大きく変化している。東京都が2023年3月に自治体初のOpenRoaming対応サービス「TOKYO FREE Wi-Fi」を開始したことなどを皮切りに導入が加速しているのだ。海外では当たり前になりつつあるOpenRoaming対応の公衆Wi-Fiを使えるかどうかは、訪日観光客にとっては重要な評価ポイントの1つ。そこでOpenRoamingへの対応を急ぐ動きが自治体を中心に見られている。
ただ、一層の普及拡大に向けては課題もある。輝日 代表取締役社長の佐藤大哲氏はこう指摘する。
輝日 代表取締役社長 佐藤大哲氏
「OpenRoamingの導入障壁の1つが、設定の難しさです。専門家以外にはとても設定できません。カフェのオーナーがアクセスポイント(AP)を買ってきて、OpenRoaming対応の公衆Wi-Fiを提供しようと思っても、到底無理なのです」
しかし、この課題も遂に“過去”のものとなった。APを置くだけでOpenRoamingに対応できるソリューションを輝日が提供し始めたからである。
筑波大学在学中に設立 OpenRoamingに黎明期から
輝日とOpenRoamingの関係は、その設立当初までさかのぼる。
高校生の頃からWebサイト制作などを個人で請け負ってきた佐藤氏。事業規模の拡大を受けて、筑波大学の3年生だった2018年4月に法人化した直後に加わったのが同級生で現副社長の関口亞聖氏だった。関口氏も個人でネットワーク保守などの仕事をしており、さらには大手キャリアの公衆Wi-Fiサービスに匹敵するシステムを構築し、友人間で自宅のWi-Fiを共有していた。「1つのアカウントでいろいろなWi-Fiスポットにセキュアに接続できる、まさにOpenRoamingが今、実現している世界を目指したような仕組みでした」と佐藤氏は振り返る。
関口氏が法人化の必要性を感じたのは市街地向けeduroamの存在を知ったからだった。eduroamは、教育・研究機関向けの国際的なWi-Fiローミング基盤。eduroamに参加する教育・研究機関に所属していれば、1つのIDでシームレスに世界中のeduroam対応Wi-Fiスポットを利用できる。日本のeduroam JPは国立情報学研究所(NII)が運営しており、関口氏はeduroamへの参加を望むが、「『さすがに個人事業主ではなく、法人でないとeduroam接続サービスを提供するのは難しい』と言われ、輝日で一緒にやろうとなったのです」。
このとき、のちに日本のOpenRoamingの基盤へと発展するWi-Fi認証基盤Cityroamの前身であるCity Wi-Fi Roamingがまもなく始まることも知り、その運営母体であるセキュア無線LANローミング協会(現在の無線認証連携協会、略称はCityroam協会)に加盟。さらに翌5月にはeduroamサービスプロバイダーとなり、翌々月の6月にはインターネット回線サービス「Infal」とeduroam対応のWi-Fiサービス「Infal Wi-Fi」の提供を開始した。輝日設立からわずか3カ月での出来事だ。
以来、前出のTOKYO FREE Wi-Fiをはじめ、多くのOpenRoaming/eduroam対応Wi-Fiスポットの構築に携わるなか、募ってきたのが「自社で製品開発すれば、もっと便利なソリューションを実現できる」との思いだったという。
それで誕生したのが、今年から提供がスタートした「Infal Wi-Fi GO」である(図表1)。大手ネットワークメーカーと共同開発した専用APを利用する。
図表1 OpenRoaming/eduroamを簡単導入できる新Infal Wi-Fi