京大・原田研が問うローカル5Gの在り方 10万円クラスの小型PC基地局でローカル5G通信を実現

今年7月、京大・原田教授の研究室がローカル5Gに関する研究成果3点を発表した。オープンソースと安価な汎用品を組み合わせたシステムでの成果を基に、ローカル5Gのさらなる普及を目指す。

日本発のIoT通信規格「Wi-SUN」や、5Gに関する研究で知られる京都大学の原田博司教授の研究室は2024年7月、立て続けに3つの研究成果を報道発表した。

その成果を並べると、「VHF帯におけるソフトウェア無線技術を用いた超広域小型自営系(プライベート)5Gシステム」(7月16日発表)、「帯域外漏洩電力を大幅に抑圧し、高い周波数資源の利用を実現するオープンソース型ローカル5Gシステム」(7月18日発表)、「オープンソースと指向性制御アンテナアレイを用いたミリ波帯ローカル5Gソフトウェア無線システム」(7月22日発表)となる。

これらは、ローカル5Gを含めた自営系5Gの在り方を問いかけるものだ。原田氏は、「ローカル5Gは値段が高く、ミリ波も含めて広がりがまだまだ足りない。普及のためには、シンプルなローカル5Gを作り、ソリューションを開発する必要がある」と話す。

京都大学 情報学研究科 情報学専攻通信システム工学講座 教授 原田博司氏

京都大学 情報学研究科 情報学専攻通信システム工学講座 教授 原田博司氏

2019年に制度化されたローカル5G。当初は最小構成でも数千万円ほどの初期費用を必要としたが、低廉化が進み、現在では数百万円程度で導入できるシステムもある。しかし、Wi-Fiとのコストの差は依然大きい。端末の問題もある。Android端末に加え2023年6月にはiOS/iPad OSがローカル5Gに対応したとはいえ、運用にはその都度検証が必要になる。

汎用品で「シンプルなローカル5G」

そこで原田氏は、オープンソースソフトウェアと既製のハードウェアを活用するというアプローチを取った。

その狙いを最も明快に示すのが、「帯域外漏洩電力を大幅に抑圧し、高い周波数資源の利用を実現するオープンソース型ローカル5Gシステム」だ。この研究では、既製品の小型PC2台に5G NRを実現するオープンソースソフトウェアをインストールし、それぞれ5Gコアネットワーク(5GC)、5G基地局(CU/DU)とした。RUには米ナショナルインスツルメンツ(NI)製のソフトウェア無線デバイスを利用、端末にはiPhone 14 Proを用いる構成を組んだ(図表1)。

帯域外漏洩電力を大幅に抑圧し、高い周波数資源の利用を実現するオープンソース型ローカル5Gシステム

帯域外漏洩電力を大幅に抑圧し、高い周波数資源の利用を実現するオープンソース型ローカル5Gシステム

図表1 小型ローカル5Gシステムの仕様

図表1 小型ローカル5Gシステムの仕様

「シンプルなローカル5G」は、シンプルな機器構成と運用によって成り立つ。シンプルな運用のためには、電波干渉を避けた、周波数の効率的な利用が必要となる。

5Gの下り回線で用いられているOFDMは「CP-OFDM」方式と呼ばれ、帯域外に漏洩する電力が多いという弱点がある。漏洩を考慮すると隣接チャネルとの干渉を避けるために広いガードバンドを設ける必要があり、周波数の利用効率が下がる。

この課題に対して原田氏は、「UTW-OFDM」方式を適用した(図表2)。この方式では隣接するシンボル同士を滑らかにするために、時間軸窓を重畳する処理を行う。これにより、少ない計算量で帯域外に漏れ出る電力を抑圧することができる。

図表2 UTW-OFDM方式の概要

図表2 UTW-OFDM方式の概要

あわせて、端末であるiPhoneには、基地局から遠隔で帯域制限を行うことで、隣接チャネルとの干渉を抑制する手段を取った。「Edge-cutスケジューリング法」がそれで、基地局からiPhoneが送信するOFDM信号に対し、サブキャリア信号の両端を抑圧する制御を行った。具体的には、100MHz幅の帯域に対して前後10MHzずつをカットし、80MHzのみを利用して通信を行った。

4.8GHz帯で行った接続試験では、この2つの技術により、従来方式と比べ基地局側の帯域幅漏洩電力を約22dB(送信電力0dBmの場合)、端末側を約11dB抑えることができた。スループットは、電波暗室での試験では従来方式が下り238.7Mbps/上り73.8Mbpsだったところ、この方式では下り164.8Mbps/上り56.1Mbpsを記録(いずれも送信電力は10dBm)。帯域を狭めるためやや遅くはなるものの、十分実用的といえる。

ローカル5Gの導入には、他のローカル5Gや公衆5Gなどとの干渉調整が必須であり、それが普及のハードルとなっている面がある。このシステムは、簡易な構成と市販端末でローカル5Gを導入できることに加え、干渉調整も容易だ。小規模なオフィスや工場などでのローカル5G利用をより促進するものとなるだろう。

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