ワイヤレスジャパン×WTP 20245Gミリ波の普及促進策を徹底議論 NTTドコモ、クアルコム、ノキア、エリクソンらの見解は?

5G用ミリ波の普及を前進させるために、キャリア・ベンダー・行政、そしてユーザーは何をなすべきか――。「ワイヤレスジャパン×ワイヤレス・テクノロジー・パーク(WTP) 2024」の最終日に開かれたパネルディスカッションでは、NTTドコモ、クアルコム、ノキア、エリクソン、NHKエンタープライズ、台湾のキーパーソンがミリ波の普及促進策を議論した。

パネルディスカッションの様子。スクリーンに映っているのは、リモートで参加したノキア ヘッド・オブ・テクノロジーマーケティング、モバイルネットワークス マイク・スマースズ氏

パネルディスカッションの様子。スクリーンに映っているのは、リモートで参加したノキア ヘッド・オブ・テクノロジーマーケティング、モバイルネットワークス マイク・スマースズ氏

総務省とXGモバイル推進フォーラム(XGMF)は2024年5月31日、「5G用ミリ波普及国際ワークショップ」をワイヤレスジャパン×WTP 2024で開催した。

ミリ波に関しては、数GHz幅という非常に広い帯域が5G用に割り当てられており、5Gの特徴である超高速大容量通信を実現する上で重要な役割を担うことが期待されている。とはいえ、面的なエリア構築が難しいなど、技術・コスト面での制約から世界的に普及が遅れている。

このシンポジウムは、ミリ波の普及促進策を探ることを目的に5G/6Gを推進するXGMFのミリ波普及推進アドホックが企画したもの。総務省やベンダー、研究機関などによるプレゼンテーションに続いて行われたパネルディスカッションでは5G用ミリ波の利用拡大に向けた手立てが議論された。

パネルディスカッションのモデレータは、XGMFミリ波普及促進アドホック主査のNTTドコモの中村武宏氏が務め、クアルコムジャパンの城田雅一氏(ミリ波普及促進アドホック副主査)、エリクソンのクリストファー・プライス氏、ノキアのマイク・スマースズ氏、台湾財団法人資訊工業策進会のダニエル・リュウ氏、NHKエンタープライズの福原哲哉氏の5名のパネリストによる熱い議論が交わされた。

NTTドコモ チーフ スタンダーダイゼーション オフィサー 中村武宏氏(ミリ波普及推進アドホック主査)

NTTドコモ チーフ スタンダーダイゼーション オフィサー 中村武宏氏(ミリ波普及推進アドホック主査)

ユースケースを手軽に実証できる場を設けるべき

パネルディスカションの主要なテーマの1つとなったのが、ミリ波をどのようにして普及させていくかだ。

中村氏は、5Gでミリ波の利用が進まない要因に、エリアが限定的であること、端末への搭載が進んでいないこと、ミリ波を必要とするユースケースが登場していないことがあるとして、これらを打開するための方策を問いかけた。

打開策の1つとしてクアルコムの城田氏が提案したのが、ミリ波のポテンシャルを手軽に体験できる“実証エリア”の整備である。

「現状ではミリ波対応のスマートフォンを持っていても、ミリ波でつながる場所がほとんどない。ミリ波を使って高精細の映像配信ができる製品もすでに開発されているが、やはり使える場所がない。ミリ波が気軽に使えて、いろいろなことが試せる環境を、実験設備ではなく、できれば公衆網、難しければローカル5Gのようなものを使って整備し、そこで成功事例を作り、発信していくことが必要だ」

城田氏はこう述べた上で、「ミリ波の高速大容量通信を必要とするユースケースはすでに存在しているが、それを実証する場が今までなかった。こうした場を作り、成功体験を積んでいただくことで、物事を前に進められるようになる」と強調した。

クアルコムジャパン 標準化本部長 城田雅一氏(ミリ波普及推進アドホック副主査)

クアルコムジャパン 標準化本部長 城田雅一氏(ミリ波普及推進アドホック副主査)

ノキアのマイク・スマースズ氏は、「ミリ波の普及を考える際に重要なのは、デバイスが実際にネットワークにつながることだ」とした上で、5Gのミリ波をWi-Fiなどに変換してユーザーが手軽に使えるようにするCPE(Customer Premises Equipment:顧客構内設備)が、ミリ波の活用を推進するにあたって重要な役割を担うと指摘した。

エリクソンのクリストファー・プライス氏は「スタジアムなどで、ミリ波を使って高速通信が必ずできるようになれば、ユーザーのミリ波へのモチベーションが高まる」と発言。また、確実なニーズがある工場などでのミリ波の活用に向けて「パートナーとのエコシステムの構築を進めるべき」とも語った。

エリクソン 先進テクノロジー担当ディレクター、アジアパシフィック クリストファー・プライス氏

エリクソン 先進テクノロジー担当ディレクター、アジアパシフィック クリストファー・プライス氏

台湾の情報通信分野の研究機関、資訊工業策進会のダニエル・リュウ氏も「限られたスペースで展開されるプライベート5Gを展開する中で、ミリ波を使ったユースケースが普及していく」とした。

台湾財団法人資訊工業策進会 ディプティディレクター、デジタルトランスフォーメーションリサーチ ダニエル・リュウ氏

台湾財団法人資訊工業策進会 ディプティディレクター、デジタルトランスフォーメーションリサーチ ダニエル・リュウ氏

番組制作では導入コストと信頼感の確保に課題

パネルディスカッションで最も多くの時間がとられたのが、ミリ波の有力な活用シーンとして期待されているエンタープライズ系ビジネス分野への5G展開。5G/ローカル5G、そしてミリ波を「バーティカルプレイヤー」にどう普及させていくかだ。

中村氏が、最初にこの問いを投げかけた相手が、NHKエンタープライズの福原哲哉氏だ。放送番組制作を手掛けるNHKエンタープライズは、総務省のローカル5G実証プロジェクトに参加。ローカル5Gを活用してテレビカメラをコードレス化し、番組制作の効率化や新たな演出手法の実現を目指す実証実験を行っている。

このプロジェクトを担当した福原氏は、番組制作における5G活用について、ユーザーの視点から2つの課題を指摘した。

1つはコスト。このトライアルでは、カメラをローカル5Gでケーブルレス化することで、ケーブルの設置、撤収などが不要となり技術分野の運用コストを半減できたという。ケーブルがなくなることで、演出の自由度が飛躍的に広がることも実証された。

とはいえ、ローカル5Gの導入コストは現状ではかなり高額であり、「イニシャルコストの問題をどうクリアするかが番組制作業界にローカル5Gを導入する上での課題になる」と福原氏は話した。

さらに福原氏は、その解決策の1つとして「イニシャルコストのハードルを1社だけで越えようとしても難しい。普及には業界内で連携して共用設備を用意するといった手立てが必要になるのではないか」という見方を示した。

もう1つが、安心感だ。「ケーブル接続を前提に業務を行ってきた番組制作の現場では、無線化により映像が途絶えて放送事故につながらないかという不安が根強くある。演出側が無線化によって新しい試みを行おうとしても、受け入れられにくいところがある。番組制作分野でのローカル5G導入を円滑に進めるには、技術面だけでなく、気持ち、精神的な部分をクリアすることが必要ではないか」と語った。

加えて福原氏が重要だと見るのが、放送などの業務で5Gを利用するために必要な機材・サービスを開発・運用するプレイヤーの登場だ。

ワンストップでの5Gソリューション提供を標榜する通信キャリアやメーカーは少なくないが、現状では企業のニーズに十分応えきれていないといえそうだ。

NHKエンタープライズ 執行役員 イノベーション戦略室長 福原哲哉氏

NHKエンタープライズ 執行役員 イノベーション戦略室長 福原哲哉氏

福原氏の発言を受けて、中村氏はパネリストに5Gのコストの見通しと、エンタープライズ分野での5G/ローカル5Gの普及に向けた見方を尋ねた。

エリクソンのプライス氏は今後5Gのコストが下がっていくことで、エンタープライズの需要が喚起されると見る。さらに「関連する様々な業界を引き込んだ、多様なアクティビティが必要になる。5Gの活用の遅れによる企業や業界の機会損失がないようにすることが重要だ」とした。

クアルコムの城田氏も、「普及が進むことで5Gのコストは下がる」とした上で、「それを受け身で待つのではなく、ある程度のリスクを覚悟して業界全体が少しつ投資をすることで、コストをできるだけ早く引き下げることが重要だ」と提言した。

ノキアのスマースズ氏は、エンタープライズ分野での5G普及における政府の役割に言及。中国政府がナローバンドIoTシステムでのNB-IoTの利用を国内で必須とすることで、世界でのナローバンドIoT市場をリードしていることを例に挙げ、「特定の条件についてミリ波の利用をマンデート(義務化)することも有力な手立てになる」と話した。

資訊工業策進会のリュウ氏は、工場などへのプライベート5Gの導入が進んでいる台湾の状況を紹介し、次のように語った。「台湾では技術だけでなく、コンサルティングやイノベーションの分野でも政府が先導する形で、産業分野へのプライベート5Gなどの導入を進めており、これが成果につながっている。コストだけが問題ではない。日本と台湾の間で情報交換チャネルのようなものを作り、経験を共有することが、重要になるのではないか」

このパネルディスカッションをはじめ、「5G用ミリ波普及国際ワークショップ」のすべてのセッションの動画は、2024年6月24日までオンデマンド配信されている(オンデマンド配信の視聴はこちらから)。

5G用ミリ波の現状と活用の可能性を知る格好の機会になるはずだ。

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