2010年8月、一部のメディアで「アップルがNFCの専門家を採用した」とのニュースが報じられた。この報道を受けて、iPhoneユーザの間では「次期iPhoneにNFCが搭載され、電車にも乗れるようになる」という憶測が飛び交った。折しも、国内ではソフトバンクモバイルやKDDIがNFCのトライアルを行っており、日本でNFCが始まる日も近いのでは、という雰囲気が盛り上がった。
しかし、現実はそう簡単ではない。本稿では、NFCとは何かという点に立ち戻りつつ、その魅力と可能性、現時点での課題について解説する。
非接触ICカードの通信方式がベース
NFCとは、Near Field Communicationの略称であり、ICカードや携帯電話など、さまざまな機器間で無線通信を行うための技術のことである。ベースとなっているのが非接触ICカードで用いられている通信方式であるため、非接触ICカードの通信を、カードだけでなくさまざまな機器に拡張させた仕様、と説明されることも多い。そこで、まずは非接触ICカードのおさらいから始めたい。
非接触ICカードは、その通信距離などによりいくつかの種類に分けられ、それぞれISO/IECによって国際標準規格が定められている。数mm程度の距離で通信を行う「密着型」、10cm前後の距離で利用する「近接型」、70cm程度の距離まで利用できる「近傍型」、1m以上の距離で利用することを想定する「遠隔型」に分類される(図表1)。
図表1 ICカードの国際標準(ISO/IEC)による分類 |
これらの中で、我々の日常生活で最もよく利用され、NFCとも関連が深いのが、近接型の非接触ICカードである。
ISO/IEC14443で規格化されている近接型の非接触ICカードは、さらに2種類に分かれ、Type AおよびType Bと呼ばれている。Type Aは世界中で利用されており、日本ではたばこ成人識別カードの「taspo(タスポ)」や入館証などに用いられている。NXPセミコンダクターズのMifare等の製品が有名である。Type Bは、特定の企業の特許に依存しないことから、公的機関のサービス用途として利用されることが多く、国内でも運転免許証やパスポート、住民基本台帳カード等に利用されている。
では、SuicaやEdyなどに用いられている非接触ICカードはというと、これらはソニーのFeliCaというカードである。FeliCaはISO/IEC14443には採用されていないが、日本においては電子マネーや交通乗車券などで広く利用されており、海外でもシンガポールや香港などでの導入実績がある。