1.1.1 インターネットが切り拓いた「ソーシャルテクノロジー」
読者の皆さんは、「ソーシャルテクノロジー」あるいは「ソーシャルアプリケーション」という言葉を聞いたことがあるでしょうか? これらの言葉は2006年頃から急激に社会へ浸透し始めました。これらの言葉の意味を説明する前に、まず、それにつながるインターネット技術、特に中核であるWeb技術の変遷を振り返ってみます。
インターネット黎明期
インターネットに関連するサービスが国内で一般に広がり始めたのは、今から十数年前となる1995年~1996年にかけ、商用インターネット接続サービスが次々と立ち上がってからです。市場の立ち上がり当初、インターネットは文書データの保存・閲覧や電子メール、ファイル転送などに使われていました。また、インターネットに常時接続しているのは大学や大企業がほとんどで、一般のユーザーはダイアルアップ接続で利用していました。この頃は、企業や大学が公開している情報へアクセスしたり、特定の相手とメールを交換したりと、“特定の目的”での利用が主でした。
通信サービスの進化
そうしたインターネットの使われ方を大きく変えたのは「テレホーダイ」(~1996年)、「フレッツ」(2000年~)といった、固定料金で何時間でもインターネットに接続できる通信サービスの登場でした。それまでの、「何か目的がある時だけインターネットに接続し、それ以外は接続しない」という利用形態から、接続費用が固定料金に変わったことにより、「特に用事がなくてもインターネットには接続しておく」「知りたいことがあったらWebで検索して調べる」という形態に大きくシフトしました。
ちなみに、通信サービスが劇的に進化していた2000年前後、筆者(永安)は大学生・大学院生でしたが、実際、それまで大学でしかできなかった「インターネットへの常時接続」が自宅でも可能になったことによって、ライフスタイルが大きく変わりました。連絡はメール中心、調べ物はWeb検索が当たり前となり、勉強や研究(レポート執筆など)はもちろん、アルバイトで手掛けていたソフトウェア開発まで自宅でできるようになったのです。
Webビジネスの隆盛
通信サービスの進化は、インターネットの利用スタイルを大きく変えると同時に、事業者がWeb上で展開するビジネスに対しても大きなインパクトを与えました。より大容量のコンテンツを提供でき、また(利用価値があればの話ですが、)長時間、頻繁に利用してもらえるのでビジネス機会が増えました。さらにセキュリティ技術の進歩により、Webを介して個人情報やクレジットカード情報を安全に送受信できる、つまり、電子決済が可能となったことで、Webビジネスへの期待度が一気に高まることになります。
これらの期待を飲み込み、1999年~2000年初頭にかけて“ネットバブル”と呼ばれる、株式市場を巻き込んだ世界的なブームが発生し、Webビジネスを手掛ける様々な企業が生まれました。過熱したブームは2000年後半に収縮しましたが、オンライン書店の「Amazon」、検索エンジンの「Google」など一部の事業者は、Webを基盤とした確固たるビジネスを構築することに成功します。
「Web1.0」から「Web2.0」への進化
こうしたブームの中、ネット企業が提供する様々なサービスが増え、Webを使うことが当たり前になってきたユーザーは、単に情報を得るだけでなく、自ら“表現する”、“コミュニケーションする”ことにWebを利用し始めるようになります。言い方を換えれば、それを可能にするWebアプリケーション(Webを通じて提供されるサービス)が登場したのもこの時期とも言えます。
1997年には「Weblog」(ウェブログ=略してBlog〔ブログ〕)と呼ばれるサービスが登場。世の中で起こっているニュースなどに対して自分の考えを述べたり、読者と議論したりする“場”として、Webが使われ始めました。そして2001年には、不特定多数のユーザーがそれぞれの専門知識を持ち寄り、オンライン百科事典を作る「Wikipedia」(ウィキペディア)プロジェクトが立ち上がります。その翌年からは、人と人のつながりをWebを介して支援する「SNS(ソーシャル ネットワーキング サービス)」が爆発的に普及し始めます。
これらのWebアプリケーションは、ユーザー同士がコミュニケーションをしたり、ユーザーが情報を書き込むことにより、サービスの価値がさらに高まるという性質を共通して持っていました。従来の「事業者がサービスを提供してユーザーが使う」というものとは明らかに異なります。
そして2005年9月、米国のテクノロジー系出版社の代表者であるティム・オライリー氏が、こうした変化を分析し、『What is Web2.0(Web2.0とは何か)』と題したコラムを発表しました。これによって、多くの人が「Web2.0」という言葉を通じて、「Webの使われ方が従来と比べて大きく変わった」と認識するようになります。この直後の2006年、シリコンバレー在住の経営コンサルタント、梅田望夫氏が同様にWebの潮流変化を捉えて著した『ウェブ進化論』が日本でベストセラーとなります。これで日本の多くのビジネスパーソンたちも、Web2.0の到来を認識するようになりました。
そして「ソーシャルテクノロジー」へ
オライリー氏らによって提唱されたWeb2.0は、非常に多くの技術的、ビジネス的な要素を含む概念ですが、とりわけ重要な要素として「ユーザーの参加」「より多くのユーザー」「情報の蓄積」があります。これらの要素を備えたWebアプリケーションは、「機能そのもの」ではなく、「多くのユーザーが参加意識を持って使っている」「ユーザーが持ち寄った情報が蓄積され、簡単に利用できる」など、ある種の“社会性”(Sociality)に大きな価値が置かれています。そして、こうしたWebアプリケーションが「ソーシャルテクノロジー」(あるいは「ソーシャルアプリケーション」)と総称されるようになったのです(図1-1参照)。また、Wikipediaのようなソーシャルテクノロジーによって集約、洗練された“知”は「集合知」と呼ばれ始めました。
図1-1 ソーシャルテクノロジーは「技術」と「使われ方」の融合 |
ブログやSNSをはじめとするソーシャルテクノロジーは現在、インターネット全体で大きな領域を占めるようになり、消費者向けだけではなくビジネスの現場でも活用されるようになっています。
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