2007年3月の開業以来、HSPAによるモバイルデータ通信サービスを主力として展開してきたイー・モバイルの事業構造は、音声通信の比重が高い他の携帯電話事業者とはかなり異なるものとなっている。
ノートPCなど向けのモバイルデータ通信サービスは、トラフィック当たりの収益性が低く、既存の携帯電話事業者には取り組みにくい分野だ。そのため本格的な競合相手というと、現状ではBWA事業者のUQコミュニケーションズ、大容量インフラを背景に携帯電話事業者では唯一この分野に本腰を入れるNTTドコモに絞られる。
これらライバルの直近の動きを見てみると、UQコムが下り最大40MbpsのWiMAXサービスの提供地域を今年に入って県庁所在地級都市に拡大、ドコモは2010年12月からLTEによる下り最大37.5Mbps(基地局ベースでは43Mbps)のサービスを東名阪の一部地域で開始する。モバイルデータ通信市場は「モバイルブロードバンド」インフラによる新たな競争フェーズに突入しており、イー・モバイルは喫緊の対応を迫られているのだ。
“必然”だったDC-HSDPAの選択
こうした現在の競争環境への対応策として、イー・モバイルはHSPAの発展システムの最新版であるDC-HSDPAを導入、2010年10月から下り最大42Mbpsのサービスの提供を計画しているのである。
7月6日に開かれた記者説明会で、42Mbpsサービスについて説明するエリック・ガン社長 |
ところで、イー・モバイルには、ドコモと同じLTEという選択もあったはずだ。2×2MIMOを実装した場合、LTEはDC-HSDPAの半分の5MHz幅で、同等の最大通信速度を実現できる。周波数利用効率はLTEのほうが格段に高い。DC-HSDPAと同じ10MHz幅で運用した場合の最大通信速度は下り86Mbps(端末ベースでは75Mbps)となる。将来のデータトラフィックの伸びを考えれば、魅力的な選択肢であり、実際、同社は2008年12月から半年間にわたって東京都心で実証実験を行うなど、LTEの商用化にも意欲を見せてきた。
にもかかわらず、イー・モバイルが当面のシステムとしてDC-HSDPAを採用したのは、大きく次の2つの理由からだと考えられる。