ビジネスモデルが課題
NFCは世界中で注目され、実証実験が行われているが、正式なサービスとして提供されている例はまだほとんどない。
その理由の1つとして、上述したセキュリティ領域の配置場所が未確定であったことがある。SIM搭載型のNFC端末は、商用販売されている機種がまだない。さらに、SIMへのNFCの実装については、仕様が完全に定まっているわけではない。そのため、携帯電話機との互換性の問題が起きる可能性があるとも言われている。
そして最大の理由は、NFCで稼ぐビジネスモデルがはっきり描けていない、ということである。セキュリティ領域を貸与するビジネスや、そこへアクセスし、情報を書き込むシステム「TSM」(Trusted Service Manager)の運用にビジネスチャンスがあり、その領域への参入を図っている企業は多いものの、既に参入過多の様相も呈している。
店頭のリーダ/ライタなどインフラ投資も必要となるが、その投資の担い手を探すのも大きな課題となっている。
日本固有の課題としては、既存のFeliCaインフラとの共存や置き換えをどのように進めるか、という議論が不十分であろう。既に百万台近いFeliCa対応リーダ/ライタが、日本中の店舗や自動販売機に設置されている。これらをNFC対応に置き換えるのか、置き換えるとしたらどのくらいのコストと時間がかかるのか、という議論が不足しているように見える。
さらに、日本国内でNFCのサービスが始まってからしばらくは、
(1)既存のおサイフケータイ(FeliCaのみ対応)
(2)海外製のNFCケータイ(Type A/Bのみ対応)
(3)国内製のNFCケータイ(FeliCa、Type A/Bに対応)
というように、いくつかの種類の端末が混在する期間が生じると懸念される。
海外の端末メーカーは、世界のマーケットを対象にビジネスをしている。そのため、日本でしか利用されていないFeliCaに、わざわざ対応する海外メーカーはほとんどないだろうと想定される。
冒頭のiPhoneに関する憶測での大きな誤解は、「NFCに対応していれば、TypeA/BやFeliCaの差異を吸収できる」というものである。実際には、NFC対応の機器であっても、必ずしもTypeA、B、FeliCaの全ての通信方式に対応していなければならないわけではなく、FeliCa方式に対応していなければ、FeliCa向けに用意されたアプリケーションは扱えないのである。自分が持っているケータイや利用しようとしているサービスがどの方式に対応しているのかは、一般の利用者には判別しにくいため、混乱を招く可能性がある。
しかし、それでもNFCのサービス化はもう秒読み段階に入っている。ソフトバンクはすでに2008年からNFCでの決済や電子ポスターのトライアルを行っており、KDDIも2010年に、決済や電子ポスターのほか、電子チケットや運転免許証の利用などのトライアルを開始した。サービスの国際展開についても検討が進んでおり、両社は韓国の大手通信事業者であるSK Telecomと、NFCでの提携を発表している。また、NTTドコモも世界中のさまざまな業界団体への仕様提案を進めている。早ければ2012年にも、日本でのNFCサービスが開始されることになると見られる。
NFC Mobileは日本発のおサイフケータイがグローバル化により進化したサービスである。このサービスが、日本でも着実に立ち上がり、かつ、海外においても新たな市場を主導していけるよう、関係各社のより戦略的、具体的な議論が望まれる。