情報通信産業を「生態系」と「進化論」で語ろう[第4回]ニッチ&サッチ ダーウィンも語ったニッチの原理(1)

生態学の理論を使って「情報通信産業」を分析すると、一体何が見えてくるのか――。今回と次回のテーマは「ニッチ」だ。ニッチの概念を提唱したジョセフ・グリンネルは、「完全に同じニッチを持つ生物は共存できない」と主張した。今回はまず、このニッチ理論から導き出せる2つの法則、共存モデル(ディヴェルシタス・モデル)と一人勝ちモデル(WTAモデル)について紹介する。

グーグルとアップル、それぞれの方法

グーグルはAndroidにおいて、端末やアプリケーションソフトウェア、コンテンツを別のベンダーが提供するモデルを作った。そして、アプリケーションソフトウェアおよびコンテンツ開発における自由度は高く、自社のプラットフォームにも閉じ込めない。グーグルは現在のマイクロソフトとよく似た戦略を採用しているといえる。それぞれのプレイヤーは敵対しているわけではなく、お互いに協力し合ってビジネスを進めるというわけだ。

一方、アップルは、1社で端末、そして端末を動かすプラットフォームを開発し、バンドルして販売している。アプリケーションソフトウェアやコンテンツは別のベンダーが提供するモデルを作ったものの、アップルという洗練された文化の中に閉じ込める。これはアップルファンにはたまらない魅力である。これは、ゲーム機器ベンダーが採用している方法に近い。アップルはその黎明期にゲームマシンと競っていたが、当時の遺伝子が今も残っているのかもしれない。

また、アップルの製品は、どこかソニーと同じ香りがする。スティーブ・ジョブズは「ソニーを尊敬している」と語っていたこともあるので、ソニーの文化の影響を受けているのかもしれない。さらに、アップルのモデルは日本の携帯電話事業者のコンテンツ配信のモデルにも似ている。こうした印象を持っているのは筆者だけでない。例えば、NTT出身のある民主党議員は一時期、「NTTドコモのiモードはオープン化する必要はない。ゲーム機器と同じであり、ゲームの世界は多様化している」といった趣旨の発言を自身のWebサイトでしていた。

果たしてグーグルとアップル、どちらの企業戦略が優位に立つのか。おそらくはグーグルがより大きな成功を収めるだろうが、アップルもアップルファンが独自の価値観を守り抜くのでかなりの勢力として生き残るだろう。

グーグルとアップルに共通すること

グーグルとアップルの両社に共通していることがある。それは総務省が進めている垂直分離の波にうまく乗ったビジネスモデルだということだ。

垂直分離の流れの中で、ネットワークの外部性をうまく生かしたビジネスモデルを「エコシステム」と呼ぶ人もいる。本来、エコシステムとは、環境系ではなく生態系という意味である。エコシステムは、戦略論では事業環境や外部環境に相当するが、昨今の戦略論では、エコシステムを企業間のビジネスネットワークと捉えている。その主張の代表的な著作としては『キーストーン戦略 イノベーションを持続させるビジネス・エコシステム』(マルコ・イアンシティ、ロイ・レビーン著)がある。

生態学のフレームワークを借用した例は、今に始まったわけではない。経済学や経営学では昔からあり、ビジネスシーンのあちこちで生態学の言葉が顔を出す。筆者は、生態学を使ったネットワークの経済学をここ数年、研究している。本連載は、その成果の一部を、皆さんと共有するために始めたが、今回紹介するのはそのコアとなる部分だ。

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池末成明(いけまつ・なりあき)

大手コンピュータメーカーにて海外市場での通信機器販売、PCやサーバーの国際戦略立案を担当。その後トーマツグループのコンサルティング会社にて、情報通信市場での事業計画と予算管理、原価計算、接続料問題を主に担当。現在、有限責任監査法人トーマツにて、世界のナレッジマネジャーとともに世界の情報通信メディア業界の調査と事業開発に従事

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