<特集>5G SA徹底解説5GはSAでどう変わるのか? スタンドアローン方式について知ろう

2021年末から日本でもサービスが始まった5G SA(Stand Alone)。これは、5Gが本領を発揮するために欠かせないステップだ。SA化で5G はどう変わっていくのか。

リビングのテレビで8K 映画を観るお父さんと、オンライン対戦ゲームを楽しむ息子の傍らで、お母さんは自慢の料理法をYouTubeチャンネルでライブ配信をしている。長女はテレワーク中だ。取引先とWeb会議しながら、ショールームにあるロボットを遠隔操作して最新機能のデモンストレーションを行っている──。

5Gが普及し始めた今、このどれもが無線ネットワークで可能になった。だが、それぞれのシーンに適したネットワークの性能・機能は同じではない。父親には大容量の下り通信、次男にはリアルタイム通信、母親には安定した上り通信が必要だ。長女は、上下通信の容量とリアルタイム性を兼ね備え、かつ高セキュリティなネットワークがほしいはずだ。

家族それぞれが通信性能・機能まで意識する必要はないが、このように用途に応じて最適な無線ネットワークを使い分ける「ネットワークスライシング」を実現することが5Gの最大の目的だ。「5G SA」によっていよいよ、こうした5G の本来の使い方が可能になる。

「5Gの価値イコールSA」「5Gの価値とは、つまりSAの価値。高速・大容量通信(eMBB)だけならNSA(Non-Stand Alone)で十分だが、5Gが持つ本来の価値を解き放つには、SAが必須だ」

ノキアソリューションズ&ネットワークス CTOの柳橋達也氏はそう語る。理由は、eMBBと超低遅延・高信頼通信(URLLC)、多端末同時接続(mMTC)を使い分けるスライシングも、産業界からの期待が高い時間同期や高リアルタイム通信(TSC:Time-Sensitive Networking)といった5Gを特徴付ける各機能も、「5Gコア」で実現されるからだ。

日本を含め世界中の通信事業者の大半は、LTEコアネットワーク(EPC)と5G基地局で構成するNSA方式で5Gを開始した(図表1)。既存のLTE設備を活用しながら5G無線(NR:New Ra dio)を迅速に展開できるのがNSAの最大の利点だが、「EPCを使っているために実現できないことがかなりある」(同氏)。

 

図表1 LTE、5G NSAからSAへの移行
図表1 LTE、5G NSAからSAへの移行

SAは、5G基地局と5Gコアでインフラを構成する。5Gコアの導入によってネットワークスライシングが可能になることで、「eMBBに加えて、URLLCやmMTCのサービスが新たにできるようになる」と説明するのは、NEC ネットワークサービスビジネスユニット ネットワークソリューション事業部門 共通プラットフォーム事業統括部 シニアプロフェッショナルの石上淳也氏。単一のインフラ上で、様々なユーザーのニーズに応えるスライスが提供できるようになる、通信事業者は「ネットワークの経済性と性能を両立できる」。

図表2は、スタジアムで使われる3種のアプリケーションでスライスを使い分ける場合の構成例だ。無線アクセス網(RAN)だけではネットワークスライスは実現できず、MEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)、5Gコアまでエンドツーエンドに連携することで、アプリごとのニーズに応えることができる。

 

図表2 エンドツーエンド ネットワークスライスの構成・利用例
図表2 エンドツーエンド ネットワークスライスの構成・利用例

試合映像を放送局へ伝送するためのスライスはRANからコアまで十分な帯域を確保。観客等にVR動画を配信するためには、画像処理を行って折り返し通信するMECまでの遅延を制御した低遅延スライスを使う。警備員向けには、無線・有線区間ともに一定の帯域を保証した優先制御スライスを提供し、確実な通信を保証する。

まだまだあるSAのメリットスライシングによって通信事業者のビジネス機会が広がり、特に遅延要件の厳しいユースケースを開拓できるようになることがSAの目玉だが、NSAとの違いはそれだけではない。

5G通信そのものの「UX(ユーザーエクスペリエンス)も向上する。アクセスが速くなり、ハンドオーバーの遅延も減る」と語るのは、エリクソン・ジャパン CTOの藤岡雅宣氏。加えて、5Gアプリを開発・提供するベンダーは、「ネットワーク内の情報を取得したり、外部からネットワーク機能を操作したりできるようになる」。

「アクセスが速い」とは、スマホ等が基地局に接続してデータ通信を開始するまでの遅延が極端に短くなることを指している。

LTEでは、端末と基地局は「接続」と「待機」の状態を繰り返していたが、5G SAでは「半接続(Inactive)」状態も可能になった。NSAでは、まず①LTEに接続(150ms)し、②チャネル設定(190ms)し、その後③NRにつながる(図表3の緑)。いきなりNRにつなぐSAの場合、Inactive状態から25msでNR通信を開始し、数メガのデータなら、NSAで①が終わる前に受信が完了。また、アクセスのための制御信号が減る、端末の電池寿命が伸びる効果もある。

 

図表3 NRチャネル設定遅延(NSAとSAの比較)
図表3 NRチャネル設定遅延(NSAとSAの比較)

接続手順が単純化するため、基地局間をまたぐハンドオーバー時の遅延も減る。2021年5月にSAサービスを始めたSingtel(シンガポール)の商用サイトで測定した結果、「ハンドオーバーの所要時間はNSAに比べて3分の1になった」(藤岡氏)。加入者がNRを使う時間が増加した結果、NRで消費されるデータ量は、NSAの頃に比べて1.5倍に向上したという。

5Gが使えるエリアが広がり、使い勝手が向上しなければ、LTEからNRへのトラフィックの移行もなかなか進まない。NRの利用機会が大幅に増えることは通信事業者にとって、4Gから5Gへのインフラ移行、LTE帯域のNR化がしやすくなり、かつ、ネットワークスライシングを活用した新サービスの提供機会が増えるなど様々なメリットをもたらす。

このほか、遅延要求の厳しいアプリにおいてリアルタイム性の高い通信を可能にするTSCなど、産業分野での5G利用を促すために3GPPで標準化された様々な機能は5Gコアをベースに作られたもので、SA化によってようやくそれらが使えるようになる。柳橋氏によれば、5Gの最初の仕様である「Release 15にもSAの規定はあったが、産業向けに機能拡張されたRelease 16/17の機能は基本的にSAをベースに作られている」。

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