消費者(コンシューマー)向けのWebアプリケーションとして発展してきたソーシャルテクノロジーですが、次第に企業(エンタープライズ)のビジネス活動に対して影響を与えるようになりつつあります。
従来の技術革新では、新しい技術はまず軍事用や大企業向けに提供され、それらが徐々に普及(量産化)される過程でコストが低くなり、中小企業や消費者でも利用できるようになる、というパターンが多くありました。しかし、インターネットが爆発的に普及した今、特にソーシャルテクノロジーにおいては、かつての技術革新と逆のことが起こり始めています。つまり、「大企業 → 中小企業 → 消費者」という従来プロセスではなく、「消費者 → 中小企業 → 大企業」というプロセスで技術が普及してきているということです。
ここでは、ソーシャルテクノロジーがどのように企業の中に浸透し、ビジネス活動に影響を与え始めているのか、「消費者」「社員」「経営(経営者)」という3つの視点から見ていきます。
1.2.1 消費者に浸透するソーシャルテクノロジー
今まで見てきたように、ソーシャルテクノロジーを活用したWebアプリケーションは、まず消費者が使い始めました。個々の消費者がブログを書き、SNSに参加してネットワーキングやコミュニケーションを行い、写真や動画の共有サイトを使うようになりました。
かつて、消費者は検索エンジンで自分の興味のある情報や商品を検索し、メーカーなどが提供している一次情報を集めていました。それが今は、他人が書いたブログやSNSの記事を読み、それを参考に購買行動を起こし、その結果をまた自分のブログやSNSの日記に書くといった「情報の消費と生産」を担っています。ブログやSNSを活用する消費者はもはや、メーカーやマスメディアが一方的に提供する情報を受け入れるだけではなく、自ら情報を発信し、他の人と共有する手段を手に入れたと言えます。
このように、インターネットを基盤としたソーシャルテクノロジーによって消費者の購買行動が変容してきた結果、企業のマーケティング活動が立脚する購買行動モデルも、従来の「AIDMAモデル」に代り、「AISASモデル」が優勢になりつつあります。
従来のAIDMAモデルでは、消費者の購買行動プロセスを
「Attention(注意) → Interest(興味・関心) →
Desire(欲求) → Memory(記憶) → Action(購買)」
とモデル化していました(AIDMAモデルの発展形として「Attention e Interest e Search e Comparison(比較) → Examination(検討) → Action e Shareの「AISCEASモデル」もある)。
これが、AISASモデルでは
「Attention → Interest → Search(検索) → Action e Share(情報共有)」
となります。
AISASモデルに登場する「Search」「Share」は言うまでもなく、インターネットとソーシャルテクノロジーが普及した結果、消費者が手に入れた強力な武器です。従来より“口コミ”は、購買意思決定に影響を与える大きな要因でしたが、ソーシャルテクノロジーの普及により、それが地理的制約を越えて日本全国、場合によっては全世界中で影響を与えるようになってきたことは、ビジネスにおいて大きなインパクトを持ちます。
1.2.2 社員に浸透するソーシャルテクノロジー
企業の中においては、特に最新テクノロジーに敏感で購買行動が活発な若手社員を中心にソーシャルテクノロジーが浸透してきています。
当然ですが、社員も家庭に帰ればひとりの消費者となるわけですから、消費者としてソーシャルテクノロジーを使い、その便利さを体感するにつれ「これを業務にも活用できないか」と考えるようになります。
例えば、ブログを使って社内あるいは顧客に対して情報を発信する、Wikiを使って複数の部署や地理的に離れた社員と情報を共有する、業務ではあまり関わりのない社員同士がSNSでコミュニケーションを取り合い、新しい視点からビジネスアイデアを生み出したり、業務を越えた人間関係を築くなど、企業内においてもソーシャルテクノロジー活用の場は広がっています。
このようなソーシャルテクノロジーを含めたWeb2.0を構成する技術を活用した、企業(エンタープライズ)の情報システムのことを「エンタープライズ2.0」と呼ぶこともあります。Web2.0が「Webの使われ方が従来と比べて大きく変わった」ことを示しているのと同様に、エンタープライズ2.0は企業情報システムの使われ方が変化しつつある(これから変わっていく)ことを意味する呼び方です。
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