「通信事業者はインフラ部門を本体の通信事業から分離し、水平分業型の事業体になるべきだ」
DX推進に向けて大胆な組織改編の必要性を語るのは、A.T.カーニーシニアパートナーの吉川尚宏氏だ。
欧米では、この水平分業が根付いている。基地局や光ファイバー網の構築・運用を本体から切り離し、インフラ専業会社が整備するネットワーク設備を複数事業者で共用するインフラシェアリングが3G時代から進展した。電波塔や基地局等のリースを行う米American Towerや欧州のCellnexTelecom、マレーシアのedotcoが代表例で、これらインフラ専業会社が通信事業者のインフラ部門を買収しながら成長。American Towerはインドや南米に進出しており、Cellnexは欧州7カ国で、edotcoは東南アジア6カ国で事業を展開中だ。
海外は「完全分離」が潮流通信事業者のビジネスは、図表のように分類できる。(1)ネットワーク構築・運用を担うインフラ事業と、(2)それを基盤に通信(コネクティビティ)サービスを開発・提供するプラットフォーム事業、そして(3)アプリケーション/サービス事業だ。
図表 水平分業(インフラ部門分離)のイメージ
インフラ事業の分離により通信事業者は、ネットワーク設備への投資を効率化し、上位のプラットフォーム事業とアプリケーション/サービス事業に経営資源を集中できる環境が整う。そうした事業体への変革を顧客企業や投資家に対して強調する意味でも、水平分離がさらに加速する兆候が見えてきたと語るのが、アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 コンサルティンググループ マネジング・ディレクターの堀口雄哉氏だ。
「上位と下位の切り離しを明確化することで、新領域にシフトしていることをマーケットに訴求しやすくなる。海外では、完全に分離された状態を作るためにインフラシェアリングが進む潮流が見えてきた。通信インフラは所有するものではなく、活用するものという方向性に日本もシフトすることで、上位レイヤーに投資を集中する動きを意図的に見せていくことが必要だ」
アクセンチュア ビジネスコンサルティング本部 コンサルティンググループ マネジング・ディレクター 堀口雄哉氏
日本の通信事業者は海外に比べると上位レイヤーのビジネスで成功してきたと言えるが、組織が従来のままでは「通信事業の延長線上」の感は拭えない。「それではマーケットへの訴求力がない。誰が見てもわかる変化を構造的に作っていくことが必要だ」(同氏)
この水平分離は日本でも始まっているが、海外に大きく遅れを取っている。牽引役としてJTOWERがあり、2020年にはKDDIとソフトバンクが5Gの地方展開推進を目的としてシェアリング会社の5G Japanを、2021年には住友商事と東急も基地局シェアリングサービスを提供するSharingDesignを設立するなど動きは広がっているが、シェアされている基地局は全体の1%にも満たない。さらなる進展が期待される。