――モバイルインフラ市場で今、地殻変動が起きています。主たる要因は5Gの開始と、それに伴うオープン化と仮想化の進展、そして経済安全保障の問題ですが、こうしたなか特に大きくシェアを伸ばしているのがサムスン電子です。サムスンの通信事業というと、スマートフォンのGalaxyのイメージが大変強いですが、モバイルインフラでも長い歴史を有していますね。
岩男 ネットワーク装置のマーケットには、1970年代から参入しています。自国のマーケット向けからスタートしたわけですが、転機となったのがCDMAです。実は韓国は、アナログ携帯電話から、いきなりCDMAに飛んでいるのです。
サムスンはCDMA技術の研究開発に注力し、韓国にて1996年に世界で初めてcdmaOneを商用化しました。これがサムスンのネットワークソリューションが世界に広まる、良いきっかけとなりました。
――3Gのベース技術となるCDMAをいち早く採用したcdmaOneは、2.5Gとも呼ばれた方式ですね。日本でもIDOとDDIセルラーグループ、後のKDDIがcdmaOne方式でサービス提供しました。
岩男 このcdmaOneをエンハンスした3G規格がCDMA2000で、「サムスンは商用実績がある」ということから、KDDIがCDMA2000を導入する際に初めて採用されました。以降、サムスンは4G、5GでもKDDIへ基地局を供給しています。2018年に定年退職するまで私はKDDIに在籍していまして、サムスンとはCDMA2000の頃からの付き合いです。
このようにサムスンはCDMAに先進的に取り組んだのをきっかけに、海外マーケットへ進出し始めましたが、やはりグローバルでメジャーな地位を獲得したのはLTE/4Gの時代からです。そして、5Gでさらに伸びました。
ベライゾン大型契約の理由――5Gでのサムスンの躍進を特に印象付けたのが、2020年9月に明らかになったベライゾンとの大型契約でした。ノキア、エリクソンを上回る約66億ドルの受注を獲得したことが明らかになり、業界で大きな話題となりました。何がベライゾンに評価されたのですか。
岩男 1つは、エンドツーエンドでソリューションを提供できる数少ないネットワークインフラベンダーだという点だと思います。ご承知のようにサムスンは、インハウスで半導体を製造できます。また、端末の部門も持っています。
自由経済圏の中で、チップから端末まで提供できるネットワークインフラベンダーは今では非常に少なくなりました。
――エンドツーエンドということですが、コアネットワークからRAN(Radio Access Network)、OSS/BSS(Operation Support System/Business Support System)のようなマネジメントシステムまで全部を提供できるのですか。
岩男 課金系システムはパートナーシップを通して進行していますが、それ以外については、マネジメントシステムも含めてエンドツーエンドですべて提供できます。
もう1つ高く評価された点としては、新しい技術にとにかく貪欲なところが挙げられると思います。これは韓国の市場特性でもあります。先進技術が大好きで、競争も非常に激しいです。韓国のMNO(Mobile Network Operator)とベライゾンによる、世界初のスマホ向け商用5Gサービスのローンチ競争というのもありましたよね。
これを支えたサムスンとしても、2009年頃から5Gの研究に力を入れてきました。ベライゾンが5Gの標準化完了前に行ったミリ波のプロジェクトにも参加しました。
こうした先進性と、韓国・日本という品質要求が非常に厳しい地域でビジネスをやってきた実績も評価されたと考えています。ベライゾンとはvRANにも共同で取り組んでいます。