<特集>特化型ワイヤレス進化論水中光無線が拓く未来 ネットワークで海を豊かに

水中において光無線通信への需要が高まっている。SDGsを背景に海洋汚染防止などの必要性が高まる中で、高速大容量通信を無線で実現し、ロボットを遠隔操作する仕組みの実現などが期待されている。

「日本は世界に比べても有利」

水中無線の技術開発について、ALANコンソーシアム代表/トリマティス代表取締役CEOの島田雄史氏はこのような見解を示す。

ALANコンソーシアム代表 トリマティス代表取締役CEO 島田雄史氏
ALANコンソーシアム代表 トリマティス代表取締役CEO 島田雄史氏

現在、海洋に関する技術開発への期待が国際的に高まっている。SDGsでは17の世界的目標の1つとして「海の豊かさを守ろう」が定められ、海洋汚染防止、海洋生態系の保護、持続可能な漁業、沿岸および海洋域の保全等の取り組みが進む。「米国や中国などは国防を目的とした開発も盛んだ」(島田氏)

ここで日本が島国である点が有利に働くという。「日本は、排他的経済水域に囲まれているという絶対的に有利な環境がある。これを利用しない手はない」と島田氏は語る(図表1左側)。

実は、日本は陸地面積こそ狭いものの、排他的経済水域と領海を含めた海洋の面積は世界でも6位になる(図表1右側)。こうしたエリアに無線ネットワークを構築できれば海洋資源開発などに大きな恩恵がある。市場が大きいことから研究開発のニーズも高く、実証実験も取り組みやすい。こうした地理的条件は技術開発を進めるにあたってメリットになるのだ。

図表1 海洋国家日本(画像クリックで拡大)

図表1 海洋国家日本

親機は有線、子機を無線で制御海洋では、「ROV(遠隔操作型無人潜水機)」というモビリティが活躍している。ROVは海中ロボットの一種で、ケーブルを介して人が操縦する。一般的なROVは、船上または陸上の制御装置と無人潜水機の間をケーブルで接続し、カメラの映像等を確認しながら遠隔操作により水中の映像や情報をリアルタイムで船上に伝送する。マニピュレータなどを搭載し、海底で機器設置や物品回収などの諸作業が行えるものもある

課題となるのは現状、ROVは基本的に有線接続であることだ。一般的にROVを運用する際は、船からテザーケーブルと呼ばれる、電力とデータを伝送できるケーブルをつなぎ、船上から人が遠隔操作する。「テザーケーブルは数kmから数10km分も必要になることがあり、ケーブルドラムに巻く。小型船舶などでは運搬が容易ではなく、コストも高くなる」とソフトバンク テクノロジーユニット IT-OTイノベーション本部の今井弘道氏は説明する。

ソフトバンク テクノロジーユニット IT-OTイノベーション本部 今井弘道氏
ソフトバンク テクノロジーユニット IT-OTイノベーション本部 今井弘道氏

さらに、「ケーブルはどうしても水流などに引きずられる。また、深いところまでROVを吊るすと水圧で重くなり、操作もできなくなる」(島田氏)といった問題も抱えているという。

そのため、複数のROVを展開することは難しい。「海は広く、1台のROVなどをスタンドアロンで展開する『点』のやり方では調査に時間がかかる。ここに無線を組み合わせれば、ROV同士がデータリンクを結んで協調制御できるようになる『面』で展開でき、一瞬で広いところを調査できる」と今井氏は期待する。ケーブルをすべて無線に置き換えていこうという話ではなく、「例えば無線のハブとなる親機を有線につなげて、そこから子機が縦横無尽に100m以内で動くといったことができれば、非常に広域を探索できるようになる」と島田氏は言う。

月刊テレコミュニケーション2021年12月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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