講 師 無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz) |
北條博史(ほうじょう・ひろし)会長 |
NTTブロードバンドプラットフォーム 取締役。2018年4月に、無線LANビジネス推進連絡会(Wi-Biz)会長に就任。2020年4月より神奈川工科大学客員教授 |
Q Wi-Fi 6E(EはExtendedの意味)とは、どんな規格ですか。
北條 Wi-Fi 6から6Eへの進化は、Wi-Fi 5から6への流れとはまったく違うものです。
端的に言うと、新しい周波数が加わります。使える周波数帯が今まで2.4GHz帯と5GHz帯の2つだったところに、6GHz帯を含めたのがWi-Fi 6Eです。この周波数の追加を除いて、通信方式はWi-Fi 6と変わりません。
Q 全く同じなんですか。
北條 周波数が拡張されるので通信の手順等は一部変更されますが、ユーザーから見えるメリットは、帯域が増えること以外は基本的に同じです。
Q Wi-Fi 6Eに対応するアクセスポイント(AP)は、2.4/5GHz帯も使えますか。
北條 使えます。Wi-Fiの規格は基本的に、前の規格をすべて取り込みますので、6EのAPには、Wi-Fi 6や5の端末もすべて接続できます。その点はまったく心配いりません。
高速波が最大7本まで使えるQ 6GHz帯が加わると、何が変わるのですか。Wi-Fi 6よりも速くなりますか。
北條 規格自体はWi-Fi 6と同じなので、理論上の最大速度(9.6Gbps)も変わりません。
では、何が変わるのか。桁違いに広い帯域幅を活かして、“高速の波”が何本も使えるようになります。
通信速度は、使える帯域幅が広いほど高速化できます。Wi-Fi 6では、最大で160MHz幅の周波数を束ねて高速化していますが、2.4GHz/5GHz帯では、これが使いづらいのです。
2.4GHz帯で使えるのは約100MHz幅、5GHz帯も460MHz幅※1ですので、この高速の波(チャネル)が2つしか取れません(図表1の青)。2波しかないので、交互に波を使うしかないのです。
これは、面的にWi-Fiネットワークを広げようとするときに非常に都合が悪い。同じチャネルは干渉するので、多数のAPを使う場合は最低でも3つの波がほしいところです。でも、5GHz帯ではそれができないんですね。
そこで、まとまった帯域が必要だという話になり、米国で6GHz帯Wi-Fiの議論が始まりました。周波数を管理している米FCC(連邦通信委員会)が、すでに5.925~7.125GHzまでの1200MHzをWi-Fiに開放しています。桁違いに広大な土地が使えるようになったのです。
日本でも今、6GHz帯をWi-Fiで使えるようにするための検討が進んでいますが、もし、1200MHzすべてが割り当てられたら、160MHzの波がたくさん取れます。最大で7つ(図表1の緑)まで同時に使えることになります。
図表1 5GHz帯と6GHz帯で割り当て可能なチャネル数
※1 5GHz帯の周波数
W52(5150~5250MHz)、W53(5250~5350MHz)、W56(5470~5730MHz)の3つのチャネルグループがある
Q そもそも、なぜ6GHz帯なのですか。他には適した周波数帯はないのですか。
北條 6GHz帯がターゲットになった背景には、モバイル通信(LTEや5G)の帯域拡大があります。
モバイルとWi-Fiは互いに補完するかたちで発展してきました。ですが、5Gになって、3.7GHz帯や4.5GHz帯がライセンスバンド(免許が必要な周波数帯)に割り当てられ、今後さらに増えていこうとしています。
Wi-Fiで使うアンライセンスバンド(免許不要周波数帯)も、それに見合った帯域を増やしていかないといけません。とはいえ、6GHz以下の使いやすい周波数で、まとまった帯域を割り当てられるのは、6GHz帯しか残っていません。ここが“最後のフロンティア”というわけです。
Q 6GHzより上か下かで、そんなに変わるのですか。
北條 取り扱いが超面倒くさくなるかどうかの境目です。波長が短くなるほど電波が飛ぶ距離は短くなるし、かつ、雨による電波の減衰がそこから増えていくので、飛びません。6GHzを超えると、使い方がかなり限定されてしまいます。
一般的に「サブ6」と言われますが、6GHz帯以下を使うと、通信環境の変化に柔軟に対応できるのです。