英国のローカル5G動向 島国で起こす新しい産業革命

英国では、2020年1月の欧州連合(EU)から正式離脱後、社会・経済をどのように維持・発展させていくかは国家的な命題となっている。その手段として、5G/ローカル5Gにも期待を寄せている。

英国政府は2017年3月に「5G戦略」を発表し、世界で進展するデジタル変革(DX)をけん引する5G分野で世界のリーダーとなるという野心的な目標の下、5G網の普及促進、生産性・効率性の向上、国内外の投資促進を目指している。

英国では、2019年4月の韓国、米国の世界初の事例には遅れたものの、同年5月に総合通信大手BT傘下の携帯大手EEが、英国初の5G商用サービスを開始した。残りの大手モバイルキャリアもサービスを開始し、2021年3月時点で加入者数は295万(出所:Telegeography社)と、欧州ではドイツに次ぐ市場規模となり、加入者は順調に増加している。B2B分野においても、国家予算と民間投資により実施されている5G実証事業が盛んに行われ、英国全土13地域34郡で約200の組織が参加し、140以上のユースケースが実証されている(図表1)。

図表1 英国全土で展開する5G実証事業(画像クリックで拡大)

図表1 英国全土で展開する5G実証事業

ローカル5Gにも期待が集まっており、英国全土で多様なプロジェクトが展開されている。特徴的なのは、5G戦略の重要な柱の一つとして掲げられた「地方自治の可能性」を追求するため、地方自治体・地権者・産業界から成る作業グループが組織され、多様なローカル5Gの実証プロジェクトが展開されている点である。以下にいくつかの興味深いローカル5G動向を紹介する(注)。

(注)
本稿では、英国の5G実証事業での5G活用事例が日本のローカル5Gの概念に近いため「ローカル5G」と呼称し、キャリアによるプライベート5Gと区別する。

1.世界遺産の海岸でも展開 世界初の700MHz活用イングランド南西部のドーセットは、イギリス海峡に臨み、中生代のジュラ紀、白亜紀の岩石が丘陵地帯を形成する、気候温暖で自然豊かな地域である。海岸には白亜の海食崖が発達したジュラシックコーストがあり、隣県のデボンにある東デボン海岸とともに、2001年にユネスコの自然遺産に登録されている。

ドーセットのジュラシック・コースト

世界遺産に登録されているドーセットのジュラシック・コースト。景観を損ねないよう700MHzを用いたローカル5Gを利用している。出典:UNESCO(https://whc.unesco.org/en/list/1029/gallery/

この地の5G実証事業が「5Gルーラル・ドーセット」である。自治体を中心として、ボーンマス大学、ボーダフォン、クアルコム、国防省、英国地質研究所等が参加している。

特に力を入れているのが、第1次産業だ。例えば酪農においては牛の個体を識別するタグと高精度映像のAI解析を組み合わせ、牛の病気や怪我を迅速に発見するといった取り組みを行っている。また、水中に5Gに繋がったカメラを配備することで、養殖中の海藻の成長にどういった要因が関係するかを分析している。その他にも小型ロボットを制御しての除草作業などにローカル5Gが用いられている。

2021年7月には、ジュラシックコースト沿いで、世界で初めて700MHzのスタンドアローン型のローカル5Gネットワークの導入に成功した。同700MHzのネットワークは、海岸線や水上のより長い距離をカバーできることから、海岸線に電波塔を設置する必要が無くなり、世界遺産の景観を害しないメリットがある。

月刊テレコミュニケーション2021年9月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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