<特集>宇宙通信で変わる未来JAXA、光衛星間通信の狙い 1.8Gbpsで宇宙空間を高速ネットワーク化

JAXAは、光衛星間通信システム「LUCAS」を開発した。最大速度は1.8Gbps。膨大な数の衛星が宇宙空間にひしめく将来、衛星間通信のニーズも飛躍的に高まる。「いいタイミングで開発できた」と力を込める。

「一般家庭の通信がADSLから光ファイバーに変わるのと同じイメージだ。ギガビットオーダーの高速大容量通信が可能になる」

JAXA JDRSプロジェクトチーム プロジェクトマネージャの山川史郎氏は、光衛星間通信システム「LUCAS」がもたらすインパクトの1つをこう説明する。

JAXA JDRSプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 山川史郎氏
JAXA JDRSプロジェクトチーム プロジェクトマネージャ 山川史郎氏

JAXAは2020年11月29日、LUCASの光通信装置を搭載したデータ中継衛星の打ち上げに成功した。今年度中には、光通信装置を搭載した地球観測衛星も打ち上げられ、地球観測の高度化が実現するが、LUCASはこれにとどまらないポテンシャルを持つ。

衛星間通信が必要な理由LUCASは、観測衛星のデータを光通信でデータ中継衛星に送り、そこから地上局には電波で送信する構成のシステムだ(図表1)。

図表1 LUCASの概要

図表1 LUCASの概要

LUCASが従来の衛星間通信システムと比べて大きく進化した点は、衛星間通信への光通信技術の採用にある。前世代のデータ中継衛星「こだま」は電波を用いており、通信速度は240Mbps。LUCASは1.8Gbpsと、約7倍に高速大容量化した。

データ中継衛星を介して、観測衛星のデータを地上へ送るメリットとしては、まず送信データ量の拡大が挙げられる。

観測衛星の多くは、地上1000km以下を飛ぶ低軌道衛星。地球を高速で周回する低軌道衛星が、特定の地上局と1回に通信できる時間は、その上空を通過する10分ほどに過ぎず、送信できるデータ量も限られる。

一方、データ中継衛星は、地上から約3万6000kmに位置する静止衛星だ。地球の自転軸と周回時間が同じであるため、一度通信対象になった地上局と常時通信できる。また、低軌道衛星と1回に通信できる時間も約40分と長い。つまり、データ中継衛星を介することで、より多くのデータを地上へ送信できる。

静止衛星用光ターミナル(OGLCT)フライトモデル
静止衛星用光ターミナル(OGLCT)フライトモデル(©JAXA)


リアルタイム性も向上する。直接通信の場合、地上と通信できる時間は1日あたり1時間なのに対して、データ中継衛星を介せば9時間。このため、よりリアルタイムに地上から観測衛星へ指示を伝えられる。実際、東日本大震災では、地上から緊急観測コマンドを送信し、その観測データを即時に受信したことで、短時間で災害状況を把握できたという。

月刊テレコミュニケーション2021年8月号から一部再編集のうえ転載
(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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