トラフィックを“寄せる”モバイル技術の標準化団体「3GPP」が仕様化した5WWC(5G Wirelessand Wireline Convergence)では、セルラーネットワーク(3GPP Network)に、それ以外のネットワークのトラフィックを引き込み、すべての経路を一元的に管理する仕組みを策定している(図表2左)。このモデルでは、ユーザー企業のトラフィック管理機能は当然ながらキャリアから提供されることになり、企業はこのネットワーク管理サービスを利用する形になるだろう。
図表2 企業とキャリア網でのトラフィック経路融合モデル[画像をクリックで拡大]
ただ、このモデルについて、「企業ネットワーク内にあるアプリケーションとの連携が考慮されていない」とシスコシステムズの河野美也氏は課題を指摘する。
そこで考えられるのが、3GPP系のトラフィックを逆に企業ネットワーク内のインフラに収容する形だ(図表2中央)。「企業内のアプリケーション間の連携がしやすいことがメリット」と河野氏は説明する。企業が個別にインテグレーションや連携設定を行う必要はあるが、あらゆるアプリケーションとその道中のネットワークを結び付け、可視化することができるようになる。
ただし、このモデルを実現するためにも、APIの公開が必要であり、キャリアの協力が不可欠となる。
ネットワーク内部には特別な機能を設けずに、オーバーレイ型の仮想ネットワークを制御するSD-WAN機能をアプリケーション側に置き、それによって複数のパスを管理・制御するシナリオもある(図表2右)。ただし、この場合はモバイル回線やMPLS回線等のアンダーレイネットワークは可視化・制御できないため、企業側でコントロールできる範囲は狭まる。
シスコシステムズ 業務執行役員 情報通信産業事業統括
ディスティングイッシュド システムエンジニア 河野美也氏
IDも1つに統合企業ネットワークとキャリアネットワークの融合に向けては、Wi-Fiとセルラー網のIDを融合させ、シームレスに認証できるようにする「OpenRoaming(オープンローミング)」という取り組みも進んでいる。
例えば、モバイル回線の認証は基本的にSIMで行われているが、Wi-FiではRadiusサーバーを介したりMACアドレスを用いた認証が一般的だ。これらの認証に用いるIDを一元化できれば、オフィスや自宅、公衆無線LANスポットなどでネットワークが切り替わっても、そのつど認証し直すことなくネットワークの利用を継続できる。
オープンローミングについては現状、Wi-Fi事業者の業界団体、「WBA(Wireless Broadband Alliance)」で「標準化及びエコシステムの拡大に取り組んでいるところ」と河野氏は話す。
WBAのオープンローミングのアライアンスには、認証の仕組みを提供しているIDプロパイダー(キャリアやクラウド事業者等)と機器ベンダーとアクセスプロパイダーなどが加入しており、アライアンス参加企業の機器・サービスで構築されたネットワーク同士なら認証し直す必要が無い。WBAではすでにオープンローミングの認証用のスマホ用アプリを「AppStore」や「Google Play」で提供。アプリを導入していない端末でもSIMで認証できる仕組みの提供も視野に入れているという。
企業のIT環境が複雑化している一方で、キャリア網ではオープン化・仮想化された領域が増えており、両者の融合に向けた環境は次第に整ってきている。多種多様なネットワークをE2Eで可視化・制御し、より高度なDXを実現できる時代の到来を期待したい。