5Gの商用サービスが始まり、各デバイスメーカーから5G対応のスマートフォンやIoT端末、チップなどが続々と登場している。
5Gの特徴は「超高速」「超低遅延」「多数同時接続」の3つだが、現在の5G商用サービスはノンスタンドアロン(NSA)方式を採用しているため、この3つの特徴すべては提供できていない。今は超高速のみという状況だ。これら3つの特徴が揃うのは、スタンドアロン(SA)方式への移行後となるが、中でも5Gの真骨頂として期待が高いのが超低遅延である。
遅延とは、例えばロボットに命令を出してから、ロボットが動き出すまでの時間差のことだ。超低遅延の5Gでは、この時間差を大幅に短縮できる。
だが、実際に超低遅延を実現するには「高精度の時刻同期がポイントになる」と原田産業 AIFチーム プロダクトマネージャーの小山肇氏は語る。
原田産業は大正12年創業の貿易商社。AIFチームは通信・鉄道インフラ向けのソリューションを提供しているチームで、海外20カ国、50社以上の情報通信サプライヤーと取引している。特に大手通信事業向けの計測器導入においては、「30年以上の実績を持つ」とAIFチーム セールスマネージャーの乾充一氏は力を込める。
しかしなぜ、時刻同期が5Gの超低遅延のポイントとなるのか。
3GPPで定められた5Gの時刻同期要件5Gの仕様を策定する3GPPは、2019年12月に公開した技術仕様書「TS38.104 V16.2.0」において、2つの基地局(アンテナ)間における時刻差であるTAE(Time Alignment Error:時間整合エラー)に関して、3つのケースに分類して要件を定めている。各基地局の時刻がバラバラでは、超低遅延は実現できないからだ。
1つめのケースは、TDD(時分割複信)の場合で、TAEを3マイクロ秒以下に抑える必要がある。2つめはキャリアアグリゲーションの場合で260ナノ秒以下が基準となる。最も厳しいのが3つめのTxダイバーシティ法のTAEで、65ナノ秒以下である。
Txダイバーシティ法とは、空間位置が異なる複数のアンテナから同じ周波数帯の信号を送信することにより端末の受信品質を向上する技術で、ファクトリーオートメーション(FA)など、よりクリティカルな産業用途での利用が想定されている。
3GPPで定められた、このTAEの要件はいかに厳しいものか。例えば、工場内の複数の基地局に時刻を送り出すケースで考えてみよう(図表1)。
図表1 TAE(Time Alignment Error)の計算
大元の基準となる時刻は、UTC(協定世界時)である。UTCは、GPSや準天頂衛星といったGNSS(全球測位衛星システム)から配信されている。このUTC信号を受信したグランドマスタクロックは、配下のスイッチへ時刻情報を配信。スイッチ内のバウンダリークロック(BC)で補正を行ったうえで、基地局に時刻情報を届ける。
装置で内部処理する際に発生する時刻のズレであるTE(Time Error)は、一般的なBCで70ナノ秒、基地局自体で35ナノ秒だ。このケースでは、BCと2つの基地局のTEを加算することでTAEの値は求められる。つまり、70+35+35=140ナノ秒となり、先の65ナノ秒を優に超える。「グランドマスタクロック自体の時刻精度が悪い場合は、さらに最終的な値が大きくなる」(小山氏)。
4Gまでのネットワーク構成では、大きな局舎にグランドマスタクロックを設置し、途中のBCを介して個々の基地局へ時刻情報を配信していたが、こうした構成では5Gの超低遅延は到底実現できないのである。
そこで小山氏はこう強調する。「5Gでは、より精度の高いグランドマスタクロックを基地局側に設置することが不可欠になる」(図表2)。
図表2 LTE and 5GにおけるGM200の設置例(インドア配置例)