「今までは映像などの重いデータも全てクラウドにアップロードして分析して、その結果をもって判定という仕組みにせざるをえなかった。最近は端末の処理性能が向上し、エッジ側でAI処理が可能になっている」
エッジAIの動向をこう語るのは、OKI ソリューションシステム事業本部 IoTプラットフォーム事業部 スマートコミュニケーションシステム部長の山本高広氏である。
OKI ソリューションシステム事業本部
IoTプラットフォーム事業部 スマートコミュニケーションシステム部長
山本高広氏
従来、AIによる推論処理を実行するには、コンピューティングリソースの問題からクラウド側にデータをアップロードする中央集権型のアーキテクチャを採用せざるを得ないケースが多かった。一方で、近年ではGPUなどAIの土台となるハードウェアの進化が著しい。そのため、センシング現場に近いエッジでAI処理を実行する、分散型アーキテクチャであるエッジコンピューティングも有効になってきた。
エッジでできることが増えるにつれ、AIを実装する前に、エッジ側とクラウド側での役割分担を事前に明確にすることが重要となっている。
プライバシー保護にも有効なエッジエッジ側でAI処理を実施する大きなメリットが、大量のデータでネットワークに負担をかけることがない点である(図表1)。「例えばフルHDの映像を安定してやりとりするには20~40Mbpsの帯域が必要になる。環境によってはLTEではこの帯域は確保できない」とEDGEMATRIX 常務執行役員 プラットフォーム開発ユニットリーダーの佐藤剛宣氏は解説する。
図表1 映像クラウド処理の問題点(エッジとの比較)
EDGEMATRIX 常務執行役員 プラットフォーム開発ユニットリーダー 佐藤剛宣氏
「特に屋外では無線を使わざるを得ないことが多い。自動車の交通量計測に取り組みたいとき、街灯や歩道橋にカメラを付けてクラウドに集約するとなると、LTEを用いる場合はフレームレートや解像度を下げてデータを相当圧縮する必要がある。結局、AIはおろか人間が確認してもよくわからない画質になってしまう。エッジで高品質な映像を処理できれば、認識率も向上する」とEDGEMATRIX代表取締役社長の太田洋氏は説明する。
リアルタイム性が求められるユースケースもなるべくエッジでAI処理を実行したい。「工場の不良品検査など、速度が求められるユースケースではエッジでの処理が有効」だと太田氏は語る。
EDGEMATRIX 代表取締役社長 太田洋氏
また、最近では「プライバシーやセキュリティへの配慮からクラウドへ映像をアップロードしたくない」というユーザーが増えていると太田氏は言う。コロナ対策で、セキュリティーゲートなどで顔認証技術を用いて、非接触でデータベースに登録されている社員かを確認し、入退館を管理するようなケースも増えた。こうした映像は個人情報保護の観点からも、クラウドに上げずエッジ内で完結させたいというニーズが拡大している。
このようにネットワーク帯域の節約や精度、リアルタイム性、プライバシー保護などの観点からエッジでの役割は大きくなっている。
一方、高精度なAIエンジンの中にはエッジで動かすのがいまだ難しいものもある。また、クラウドならば耐障害性も高い。こうしたメリットに目をつけて、エッジで不要な部分をそぎ落としてからクラウドのAIにデータを送る構成も有効だ。マイクロソフトでは「Azure Stack Edge」というAzureとの連携を前提にしたエッジデバイスを提供している。個人情報データを削除したり、フィルタリングした上でクラウドに送ることが可能になっている。