「1月と比較して、4月のトラフィックは9倍近くに増えた。回線帯域を追加して対処しているが、これがずっと続くと正直厳しい」
そうこぼすのは、全戸一括型の共同住宅向けインターネット接続サービスを提供するファイバーゲート 常務執行役員(営業推進本部 レジデンスWi-Fi営業部長)の金子尚氏だ。トラフィックが急増した3月以降は回線を増強するなどして対応しているが、「お客様との契約は定額制なので追加料金はいただけない。コストが膨れ上がっていくのは非常に深刻な問題となっている」。
ファイバーゲート 常務執行役員 営業推進本部 レジデンスWi-Fi営業部長の金子尚氏
PPPoE輻輳問題が再燃新型コロナウイルスの影響で外出自粛やテレワークが広がるなか、インターネットの輻輳が所々で発生するようになった。特に、マンション全体で回線を共用する全戸一括型マンションで「遅い」「つながらない」などのクレームが目立つ。
ただし、障害の発生具合はマンションISPの事業形態や設備の状況によって異なるようだ。
全戸一括型サービスでは図表のように、共用設備に引き込んだ光回線を全住戸で共用するが、マンションまでのアクセス回線とバックボーンについては、マンションISPが自社回線を用いるケースと、フレッツ光などの他社回線を使うケースに分かれる。
図表 全戸一括型インターネット接続サービスの構成
ファイバーゲートは後者だ。NTT東西のフレッツ光、特にPPPoE方式を用いる物件で速度低下が頻発した。なお、顧客は1棟あたり10戸程度の小規模・賃貸物件が主だ。
一方、業界シェアトップのつなぐネットコミュニケーションズは、自社回線をメインに事業を展開している。契約物件の約8割(戸数ベース)が自社回線で、主要顧客は分譲新築マンションだ。代表取締役社長の大橋一登氏は、「まったくないとは言えないが、自社回線ではあまり輻輳は起きていない」と話す。「フレッツ回線も、PPPoEかIPoEかで状況はかなり異なる」という。
PPPoE接続については従来から、ISP設備とフレッツ網を接続する網終端装置(NTE)の輻輳が問題となっていた。新型コロナの影響でそれが改めて顕在化。IPoE方式を用いたIPv6接続への移行が加速している。
IPv6/非フレッツへ移行が加速ファイバーゲートもこの間、IPv6接続への切り替えによってサービス品質の維持に努めてきた。提携する朝日ネットから帯域の追加提供を受け、「遅い、つながらないという声が挙がったところはすべてIPv6に逃がしている」(金子氏)。
フレッツから他社回線への切り替えも進めている。「西日本・中部ではコミュファ光、eo光、MEGA EGG等の電力系、東日本ではNURO Bizの回線を使い分けながら対応している」。
さらに、6月から新サービスの提供も始める。これまでは基本的に、1棟ごとに1G/2G回線を1本引き込むプランのみだったが「最初から複数本使い、料金は上がるがより快適に通信できる高品質プランを提供する」。帯域需要に応えるのが狙いだ。
ただし、こうした回線のアップグレードだけでは状況が改善しないケースもある。通信速度の低下や輻輳を引き起こす要因はトラフィック量の増加だけではないからだ。「アプリの多様化も影響している」とつなぐネットの大橋氏は指摘する。
テレワークの普及でSaaSやWeb会議の利用が増えているが、「セッションの張り方がそれぞれ異なり、古いルーターやハブ、Wi-Fiはそうしたアプリの利用を想定していないものも多い」。マンションISPが専有設備に手を入れることはできないが、「機器を替えていただいたことで品質が改善したケースもある」という。
なお、アクセス回線は「数年前からほぼ1Gに切り替わっている」(つなぐネット マンション事業部 プロダクトマーケティング部長の山本尚弘氏)。同社では昨年10Gサービスの提供を開始したが、外出自粛が広がるにつれて「10Gに関する問い合わせも増えてきている」。