昨今、住宅、旅行、金融など意外な業界、企業からIoT事業が生まれている。オートバックスセブンもその1社だ。2016年の立ち上げ以来、多数の地方自治体と実証実験を重ね、今年10月にはミミズク型見守りロボット「ZUKKU」を発売。今後は杖や車に搭載する見守りデバイスなどを発売する予定だ。順調に進むIoT事業だが、カー用品専門店のイメージが強いオートバックスセブンがなぜIoTを始めたのだろうか。
「自動車業界は成熟市場にある。今後右肩上がりに大きく伸びることはないこの市場で、企業として継続的に成長するための新規事業の1つとしてIoT事業を始めた」。こう説明するのはオートバックスセブン ICT商品部長の八塚昌明氏だ。
IoTを選んだきっかけは、近年のコネクテッドカーブームにあるという。「自動車業界ではここ数年来、コネクテッドカー、”つながる車”ということがずっと言われてきている。その実現の基盤となるのがIoTの技術。今後はどのフェーズにおいてもIoTのインフラが必須になると考えた」(同氏)。
オートバックスセブン ICT商品部長 八塚昌明氏(右)と、ICT商品部 パブリックリレーションズ担当 淡路康晴氏 |
テーマは「安心・安全」IoT事業の土台となるのが、同社が独自に構築したIoTプラットフォームだ。このプラットフォーム上にデータを収集・蓄積・分析し、サービスを展開していく。データ収集のための多様なIoTデバイス、通信なども用意している(図表1)。
将来的にはAPIを公開し、業界や企業規模を超えたエコシステムを形成する狙いだ。
「共通基盤を使わず一気通貫にデバイスからデータ収集の環境、サービスまで全てを構築しようとすると膨大な時間とコストがかかる。プラットフォームを活用することで、アプリケーションだけ作ればIoTのサービスが低コストで簡単にスモールスタートできるようになる。サービスの実証、立ち上げ、撤退も容易だ」(八塚氏)。
図表1 IoTプラットフォームのイメージ
このIoTプラットフォームによって「安心・安全」をテーマに企業や自治体と連携し、様々な”地方の課題”を解決するサービスを提供したいという。
「大都市は課題解決のためにすでに色々な取り組みを行っている。中核以下の小さな都市の方が、お金もないし、企業もない、人口が減少している、高齢化が進んでいるなど厳しい状況にあるので、そういうニッチなところの課題を解決していきたい。1つ1つの課題、市場規模は小さくとも、全国で見たらかなりの市場がある」と八塚氏は語る。
こうしたビジョンのもと、具体的な取り組みとしてまず行ったのが、2017年の北九州市での実証実験だ。車載IoTデバイスと高速移動に強いLPWA、「ELTRES」を使用し、高齢者の運転見守りを目的に実施。さらに、その際に設置したアンテナを利用して大分県国東市の山中で登山者の見守り、獣害駆除用IoT罠の実験も展開した。
また、2018年度には総務省のIoTサービス創出事業に採択され、視覚障害者の自律移動支援ツールと、視覚障害者・高齢者向けに杖に装着できるIoTデバイスによる見守りサービスを提供するための実証実験も行った。いずれも現在は実用化に向けて準備を進めているものもあるという。