ICTを経営視点で捉えることの本質[第1回]今、ICTの現場で何が起きているのか?

ICTの採用・販売側ともに短期的・近視眼的な効果のみを追求し、ICTの本質的な意味合いがないがしろにされていると感じているのは筆者だけではないであろう。本連載では成功事例を交えながら、ICTを経営視点で捉えることの本質に迫る。

本連載で議論する4つの論点

では、ここで本連載を通じて解決すべき4つの論点について明らかにする。各論点を2回程度の連載に分けて、理論的・実践的側面で考察を行うとともに、先進的な企業における取り組み事例を付して解説することとしたい。

論点1: 事業戦略とICT戦略の関係はどうあるべきなのか?
そもそも確固たるICT戦略を策定している企業は稀有と言える。全社を舵取りする指針である中期経営計画や単年度の事業計画に基づいて、“情報システム計画”なるものを策定している企業は数多く存在するが、IFRS(International Financial Reporting Standard)等への制度対応やICTコストの削減に取り組むこと自体が果たしてICT戦略の遂行と言えるのであろうか? ICT戦略が“戦略”たる所以を明らかにしたうえで、事業戦略との相互関係性についてあるべき論を追求していく。

論点2: 企業が具備すべきICTマネジメント能力の水準とは?
敢えて誤解と批判を恐れずに述べるが、現在導入しているまたは今後導入を予定している情報システムやネットワークの“コスト”に対して異常なまでにこだわる論拠と妥当性はどこにあるのだろうか?

ICTコストを極限まで抑えることがICTマネジメントの真髄と勘違いしている企業は非常に多い。自社が志向するビジネスの方向性や導入を予定しているICTがもたらす経済的価値等の観点から、必要となる投資ボリュームや価格の是非が議論されるはず。この点をないがしろにし、コスト削減一辺倒の議論しか行えないのは、自身にICTマネジメント能力が具備されていない証である。ここでは、各企業が具備すべきICTマネジメントの体系と運用方法論について詳述を行い、必要とされるICT予算との関係性を明らかにする。

論点3: ICTの戦略的活用とはどういうことなのか?
今後、コスト削減を主たる目的としたICTの導入はあり得ないと言える。理由は、以下の2点である。

1.すでに企業内のあらゆるビジネスプロセスにITが何らかの形で導入されている

2.(特に日本企業は)ITの導入によって抜本的な合理化を図れたとしても、余剰人員を削減する人的施策が講じにくい

故に、今後の主眼は“真の意味での”ICTの戦略的活用にあると言える。戦略的活用とは「競争優位の確立」に資することを意味し、具体的には「自社のコアコンピタンスにICTを活用する」ことを指す。ここでは、事業戦略的な観点から自社固有のコアコンピタンス導出方法を示したうえで、具体的なICTに展開していく方法論を明らかにする。

論点4: 顧客のためにSIer/ITベンダーはどのような役割を果たすべきなのか?
あらゆる出自のIT関連プレーヤーが、「ソリューション志向」、「サービス志向」を過大に表現しているため、各社の強みが見えない状況になっている。皆が皆、クラウドコンピューティングの有用性を叫び、どんなサービスであっても、さも事業の成功に結びつくかの如くの表現が用いられている。このようなことが横行し、許容されているのはICT関連業界だけである(果たして、「ばんそうこう」を提供しているメーカーが、その商品を以って「あなたの健康を守ります」と表現するであろうか……)。

先程来、ユーザー企業サイドのコスト偏重意識に対して苦言を呈してきたが、その原因の一端はサービスのサプライヤーサイドにも求められる。現在のような営業展開を続けていれば、ユーザーサイドが各社の差別化余地を確認することは困難極まりなく、結果的にコストだけがベンダー選定基準となってしまう。

「ソリューション志向」も「サービス志向」も精神論に他ならない。現在求められているのは、各社が排他的に形成可能なユーザー企業との新たな関係性だ。ここでは、ユーザー企業とサプライヤーとが、「発注者-受注者」の関係を超えて形成すべき新しいパートナーシップのあり方について詳述していく。解決すべき論点の性格上、理論だけが先行してしまうと、それこそ「精神論だ!」という謗りを受けかねないので、可能な限り事例を交え、実践的な議論を展開していきたいと考えている。

松岡良和(まつおか・よしかず)

世界で最初に設立された経営コンサルティングファームのアーサー・D・リトル(ジャパン)で、TIME(Telecommunication/Information Technology/Media/Electronics)プラクティスの日本代表を務める。専門領域は、同分野に対する事業戦略立案、新規事業開発、組織・人事制度改革等。国内最大手システムインテグレーター、会計事務所系コンサルティングファーム、欧州最大手IT・戦略ファームを経て、アーサー・D・リトルに参画

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