THK、NTTドコモ、シスコシステムズは2018年10月18日、製造業向け予兆検知アプリケーション「OMNI edge」の無償トライアルを開始し、2019年1月末までに参加企業を50社募ると発表した。2019年春の商用化を目指す。
OMNI edgeの中核をなすのは、THKが開発した「THK SENSING SYSTEM」だ。これは生産設備の部品にセンサーを付け、部品レベルで損傷状態をデータとして取得して可視化できる技術。従来、熟練技術者が自身の経験をもとに行ってきた生産設備の異常診断を自動化できるという。
OMNI edgeでは、THK SENSING SYSTEMで取得したデータを、シスコのエッジコンピューティングルーター、もしくはスマートフォンに集約し、ドコモが提供する閉域網を介してクラウドにアップロード。そして予知検知ソフト「THKシステム」で監視する。
OMNI edgeの仕組み。簡単かつ安全に、グローバルでも活用できることを目指す
第1弾として提供するのは、「LMガイド」の予兆検知アプリケーションだ。LMガイドは機械の直線運動部をガイドする部品のことで、THKの主力製品の1つ。製造現場で機械の高精度化、高剛性化、省力化などの目的で使われている。
「THK SENSING SYSTEM」イメージ図。画像内左側の部品がLMガイドのイメージ図
OMNI edgeの特徴は「簡単設定」「安全な運用」「グローバル展開」の3つだというが、なかでも3社が強調したのが簡単設定だ。
THK 取締役専務執行役員の寺町崇史氏は、OMNI edgeを提供する背景について、「工場のIoT化は①つなぐ、②集める、③分析・予測、④アクションの順番で行われるが、①、②のネットワークの問題で躓いてしまうケースが多い」と説明。
NTTドコモ 取締役常務執行役員の古川浩司氏も「IT側に製造業に対する知見と人員、質と量の両面で不足している」と語ったうえで、「IoTはネットワークやセキュリティの対応が難しく、踏み出せない工場が多い」と解説した。すなわち、「IoT成功のカギは、ITの要素をいかになくしていくかだ」(シスコシステムズ 執行役員 CTO/CSOの濱田義之氏)。
IoT化による効果が生まれる③、④までたどり着けないケースが多い
OMNI edgeではIoT化に必要なデータ収集・蓄積・分析といった設計・構築作業を自動化し、ITエンジニアがいない製造現場でも導入・運用を可能にすることを目指す。寺町氏は「家電製品と同じように、コンセントをつないで電源が取れたら、データセンターまでセキュアな状態でデータが伝送される」状態が目標だと語った。
例えば、ネットワーク部分の自動化については、「SDNやプラグアンドプレイなどの技術を活用して、SIMを挿して回線がつながれば、自動的に設定が同期される。特に今回のミソは、ドコモと協業することでエンドツーエンドのゼロタッチプロビジョニングを実現できる点」と濱田氏は話した。
シスコのエッジコンピューティングルーター「IR829」。IoT専用SIM(右)を挿して利用する
2つめの特徴である安全な運用については、ドコモが提供する閉域網とシスコのVPN技術を活用することで、セキュアに運用できるという。3つめのグローバル展開に関しては、「ドコモは200以上の海外通信事業者と連携しているため、国をまたいでも十分連携できる。まずは日本で提供するが、少なくとも東南アジアであれば問題ないはずだ」と古川氏は語った。トラブルがあった際はドコモがサポート対応を行う。
OMNI edgeの想定顧客について寺町氏は、「産業機械などを実際に利用しているエンドユーザーで、規模としては中堅企業」と述べた。今後、「他要素部品診断アプリ」などを順次展開していく予定。トライアルに参加する50社の選定方法は「先着順ではなく、個別に相談して決める」という。具体的な利用料金はトライアルを通じて決定するが、初期費用不要の月額制を予定している。
(左から)NTTドコモ 取締役常務執行役員の古川浩司氏、THK 取締役専務執行役員の寺町崇史氏、
シスコシステムズ 執行役員 CTO/CSOの濱田義之氏