「ワイヤレスは5Gを実現するための重要な要素だが、氷山の一角に過ぎない」。インテルで5Gビジネスを担当するアレキサンダー・D・コーチ氏はこう前置きして、インテルの5Gへの取り組みを説明した。
コーチ氏はまずこのワイヤレス分野について、「インテルはWi-FiやBluetoothからGNSS、3G、そしてLTEまで幅広いソリューションを持つ数少ない半導体企業の1つ。5Gの標準化にも積極的に貢献している。さらに大きな投資を行い、様々なプレイヤーと協力してプロトタイプの5Gモデムを開発し、5Gを現実のものにしてきた」と話した。このプロトタイプは、すでにタブレット端末などに搭載され、デバイスメーカーや通信事業者によるテストが進められている。
インテルは、ワイヤレス・テクノロジー・パークでこのプロトタイプモデムを搭載した世界初の5G対応モバイルPC(2 in 1 PC)による映像配信デモを披露したが、「モバイルPC上で5Gが実際に動いているのを見ると、きっと驚かれるだろう」とコーチ氏は語った。
インテル コーポレーション ネットワークプラットフォームグループ バイスプレジデント
5G戦略・プログラムオフィス ジェネラルマネージャーのアレキサンダー・D・コーチ氏
さらにコーチ氏は「5G対応のモバイルPCは、おそらく来年にも数機種が商用化される」との見通しを示したうえで、そのキーとなる商用版モデム製品の開発状況について、「5G用モデムチップ『XMM8000シリーズ』の最初の製品となる『XMM8060』を2019年前半にデバイスメーカーに提供すべく、準備を進めている」と説明した。
インテルではXMM8060を用いた通信モジュール(組込み用端末)を展開することで、2019年に実用化が見込まれているFWA(固定無線アクセス)のCPEやコネクテッド・カーなど、「電話以外のものにも広く実装できるようにする」戦略だという。
ワイヤレスは5Gという氷山の一角に過ぎないとコーチ氏は指摘する
さらにコーチ氏は、話題を氷山の一角(ワイヤレス)から、「これを水面下で支える基盤」であるネットワークに移し、「5Gではネットワークの強化が大きな課題となる」と述べた。
クラウドからコア、エッジ、アクセス、そしてデバイスに至るエンドツーエンドの5Gネットワークに求められる要件として、コーチ氏がまず挙げたのが「柔軟性」だ。
「5Gでは、どういったタイプのサービスがネットワークに乗って来るかわからないので、すべてのエンドポイントがパフォーマンスを発揮できるようにする設定能力、拡張性が必要になる」。これを実現するには「ソフトウェア・デファインド」が不可欠になるという。
「5、6年くらい前にクラウドの世界で始まったNFV/SDNの動きが通信事業者のコアネットワークに広がってきている。時間はかかるだろうが、RAN(無線アクセスネットワーク)でもこの動きが見られるようになるだろう」とコーチ氏は予測する。
さらに仮想化の進展に伴い、コアネットワークに集約されていた網機能が分散配置されるようになることで、「エッジにも高いパフォーマンスが求められるようになる」という。
インテルは、特定のベンダーやプラットフォームに依存せずに無償で利用できるオープン標準が、この変化を加速させる役割を担うと見て、OPNFV(Open Platform for NFV)やONAP(Open Network Automation Platform)など、多くのコミュニティに参画している。
5G時代にはネットワークのエコシステムも変わってくる
分散ネットワークを実現するXeon SoCでは、インテルはこのエンドツーエンドのネットワーク変革を実現するために、どのようなソリューションを展開していくのか。
コーチ氏は「インテルが担う分野は、やはりコンピューティングを支えるプロセッサーが中心となる」と話した。主力となるのがクラウド上の大量のワークロードを支える「Intel Xeon スケーラブル・プロセッサー」である。
さらに、電力供給や設置スペースに制約があるエッジ向けに「Intel Xeon SoC(Xeon Dシリーズ)」も提供している。Xeonプロセッサーの基本的な機能を備えつつ、省電力化・省スペース化を図ったもので、ネットワーキングやストレージ・デバイスとの接続機能なども搭載されている。
デバイス向けには、小型・低消費電力の「Intel Atomプロセッサー」を提供している。
コーチ氏は「これらの製品は共通のプラットフォームで動いているので、通信事業者のニーズに合わせ、ロケーションをまたいで拡張することができる」という。5G時代のネットワークは、これらのプロセッサーに支えられることになる。
さらに、インテルではFPGA(プログラム可能なLSI)やLANとの接続を担うイーサネット・コントローラー、メモリーや帯域幅といったリソースの共有状況を可視化・制御するリソース・ディレクターなど、多様なハードウェア・ソフトウェア製品の提供を通じて、5G時代のネットワークのニーズに応えていく。
仮想化技術をベースとした新たなネットワークへの移行に伴い、「ネットワークを取り巻くバリューチェーンも大きく変わる」とコーチ氏は指摘する。新時代のネットワークでは、大手の通信ベンダーだけでなく、「中小規模のアプリケーションベンダーやOSベンダーなどの新たなプレイヤーが、新しいサービスや機能をネットワークに提供できるようになる」という。そのため、「ビジネス・プロセスや、求められるスキル、人材のタイプも変わってくる」とコーチ氏は指摘する。
インテルが、新時代のエコシステムの構築に向けて設けた「ネットワークビルダー」プログラムには、「独立系ソフトウェアベンダーなど300社以上が参加している」とのことだ。
5G時代のネットワークを支えるインテルのソリューション
エッジに大きなビジネスチャンスコーチ氏が特に強調したのは、「多くのエコシステムの参加者にとって、エッジが大きなビジネスチャンスになる」ということである。
IDCが行った調査では、2019年までにIoTにより生成されるデータの45%は、ネットワークのエッジ近く、またはエッジ上で保存・処理・分析・対応されるようになるという。
例えば、「映像で顔認識を行う場合、HD画質の映像をすべてクラウドに上げるのではなく、エッジで処理を行い、必要なデータをクラウドに送ることで、よりよいエクスペリエンスが得られる」という。
決済・ペイメントを顔認識で行おうという動きも出てきている。セキュリティー対策上、データをクラウド上に上げたくないという企業も少なくない。低遅延を必要とするアプリケーションでもエッジ処理は不可欠だ。
これらのニーズに、優れたコンピューティング・ストレージの能力、拡張性を持つインテルのプロセッサー、プラットフォームで応えることができ、様々なサービス、ビジネスが登場してくるというのである。
講演の最後にコーチ氏は、「コネクテッド・カー」「高精細メディア」「医療」「ロボテックス」の4分野で、日本には5Gの非常に大きなビジネスチャンスがあると見ていると述べた。
さらに、5Gをこれらのマーケットに展開していくには、技術だけでなく、その業界と関わりつつ、そのノウハウを発展させていくことが重要だと指摘。「5Gがこれから産業をどう変え、コンシューマーに新しいエクスペリエンスを提供できるか、皆様とともに楽しみにしていきたい」と講演を締め括った。