現在、我が国の国際競争力の低下が懸念されています。いくつかデータを確認してみましょう。
OECD(経済協力開発機構)のデータによると、2016年の日本の1人当たり労働生産性(就業者1人当たり付加価値)は、8万1777ドルであり、OECD加盟35カ国中21位でした。先進7カ国中では最低となっています。アメリカと比較すると3分の2程度の水準です。
また、イギリスの教育専門誌『タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)』が集計する「世界大学ランキング」の最新版(2018年版)によると、100位以内に入った日本の大学は2校のみ。46位の東京大学(昨年39位)と74位の京都大学(昨年91位)だけとなります。
同じくTHEによる「アジア大学ランキング」では、2015年まで東京大学が3年連続で1位でしたが、2016年には東京大学は7位に後退し、首位はシンガポール国立大学となりました。
このように、産業・高等教育のいずれにおいても、「国際競争力が相対的に低い」という実態があります。
こうした状況に対し、「小中高などの初等・中等教育がどうあるべきか」という議論が高まるのは必然でしょう。
実際、第2次安倍内閣成立後の2013年より首相の諮問機関として教育再生実行会議が設置され、政治主導で次々と教育改革が進んでいます。
実行会議で検討されたことは、しかるべき手続きを経て現場教育に反映されますが、その中でも特に、2020年から実施される次期学習指導要領が1つのターニングポイントとなります。
学習指導要領とは?学習指導要領とは、10年に一度改訂される教育課程の基準です。この学習指導要領によって教科書が作られ、日本中の学校で授業が実施されます。
ある研究者は「学習指導要領は国民形成の教科書である」と表現しましたが、それほど重要なものです。
最新の学習指導要領は2017年に策定され、2020年から順次、小中高等学校や特別支援学校で実施されます。
国の教育改革で検討された内容は、原則として新学習指導要領として展開する、という流れとなります。
「ゆとり教育」と「脱ゆとり教育」学習指導要領についてあまりご存知ない方でも、「ゆとり教育」という言葉を聞いたことはあるでしょう。
「ゆとり教育」「脱ゆとり」などの言葉が国民的な議論を呼んだり、あるいは、該当する世代の人々を揶揄する言葉として使われていることは、どなたもご存知だと思います。
いわゆる「ゆとり教育」とは、1980年度施行の学習指導要領に沿った学校教育(カリキュラム)から始まりました。このカリキュラムは、1970年代までの「詰め込み教育」を是正し、思考力を鍛えるために「ゆとりある学校」を目指して作られたものです。
この年の学習指導要領から授業時間が削減され、この傾向は1992年度、2002年度の学習指導要領にも受け継がれました。
特に、「生きる力」を重視するとされた2002年度からの学習指導要領では、小中学校の学習内容を3割削減、完全学校週5日制の導入などもあり、この学習指導要領を、狭義の「ゆとり教育」とする考え方もあります。
1980年代以降、常に賛否両論だった「ゆとり教育」ですが、2000年以降、大きな批判を浴びることとなります。その契機となったのは、OECD実施の生徒の学習到達度調査(PISA)などの国際学力テストで順位を落としたことです。
こうした経緯により、2011年から施行された新学習指導要領では、これまでの流れに反し、授業時間の増加が盛り込まれました。このことをマスコミが「脱ゆとり教育」と呼ぶようになったのです。
以上が、国民的な議論にもなった「ゆとり教育/脱ゆとり教育」についての経緯となります。