ビジネスの明日を動かすICTトレンド農業ICT(AgTech)が“日本の農業”を奇跡の復活へと導く

国際競争力を失った日本の農業――。今後は、少子高齢化による農業人口と国内需要の減少も深刻化し、日本の農業を取り巻く状況は決して明るくありません。ただその一方で、日本の農業を復活させるため、IoTやAI、ロボットなどを活用した「農業ICT」(=AgTech)の取り組みが活発化しています。今回は、我が国農業の現状を確認したうえで、代表的なAgTechの取り組みを紹介します。

民間でのAgTechの具体的な取り組み例民間レベルでは、AgTechに関する様々な取り組みが行われています。

「ドローンで農薬を散布する」「センサーで農作物を監視する」などの基本的なレベルの取り組みを超えた、より価値の高いユニークな取り組みも多々行われています。タイプ別に8つのAgTechの事例を紹介していきたいと思います。

<AI×ロボットを活用したAgTech事例>

(1)ディープラーニングを利用した画像分析で害虫を検出し、ピンポイントで駆除するドローン

ITベンチャー企業のオプティムが開発した「アグリドローン」は、大豆畑の上空を自律飛行し、大豆の葉に生息する害虫(蛾の幼虫)を見つけ出します。そして、その幼虫の近くまで下降してピンポイントで殺虫剤を吹きつけます。

害虫を検出するために、搭載するマルチスペクトルカメラで、上空から多くの大豆の葉を撮影します。その際、害虫に食べられた葉の数ミリ程度の変色を検知することにより、害虫の存在を識別。

この変色した葉の検知には、ディープラーニングによる画像認識が使われており、必要なところにだけ殺虫剤を撒くことができるので、経費節減につながります。

<アグリドローンの紹介動画>

(2)画像から収穫可能かどうかを判断するトマト収穫用ロボット

パナソニックでは、熟れているトマトを判定し、傷つけずに収穫できるロボットを実証実験中です。

まず、カメラと距離画像センサーが、人間の目の役割を行い、トマトの色や形、位置などの情報を検出。その後、検出したトマトに対し、プログラムにより「トマトの色」「マニピュレータによる収穫の可否」を確認。収穫可能であると判断したら、果実にキズをつけないように開発された収穫用マニピュレータを動作させ収穫を行います。

図表4 パナソニックの「トマト収穫ロボット」
図表4 パナソニックの「トマト収穫ロボット」
出典:パナソニック
(http://news.panasonic.com/jp/stories/2016/45398.html)

<IoT×AIを活用したAgTech事例>

(3)収穫するコメの食味・収量をクラウドに蓄積・分析するコンバイン

農機大手のクボタのコンバインには、収穫した作物の情報を測定する2種類のセンサーを搭載し、その情報をクラウドに蓄積・分析できる機種があります。2種類のセンサーとは「食味センサー」と「収量センサー」です。食味センサーは、具体的には作物のタンパク質と水分の含有率を測定します。

これらのセンサーを利用することにより、圃場(田畑)ごとの収量・食味を分析し、その結果を翌年の施肥計画に反映させることが可能。つまり、施肥の量と収穫した作物の量・質の関係を、定量的に測定できることになります。

また、作物を水分含有量ごとに選別乾燥することでコストダウンできますし、タンパク含有量の適切なものだけ選別してブランド品にするなどの施策を行うことができます。

クボタの食味・収量センサー搭載コンバイン
クボタの食味・収量センサー搭載コンバイン

(4)センサーで溶液土耕システムを完全制御

溶液土耕システムとは、水と肥料を混ぜ合わせた溶液を、チューブを使って作物の根本へと届けるシステムです。ベンチャー企業のルートレック・ネットワークスの営農支援システム「ゼロアグリ」は、この溶液土耕システムを自律的に最適運用することが可能。日射センサーと土壌センサーからの値を、AIが総合的に判断し、液肥の供給量を決めています。

作物に合わせた最適な潅水施肥を実行できるため、収量の増加と減肥が見込めるとともに、農業者の潅水施肥の作業時間を大幅に削減します。

(5)遠隔操作を始め、水位や時間などでの自動開閉も可能な水門管理

ベンチャー企業の笑農和が提供する「パディッチ」は、水田の水位調整を、遠隔および自動で行うIoTシステムです。稲作農家にとって水管理は重要かつ負荷が高い業務であり、通常、水管理のために毎日水田を巡回します。

パディッチは、計測した水温や水位をすべてクラウドに蓄積するため、それらの情報を遠隔地のスマートフォンなどから確認可能。また、水門開閉以外にも、減水や水門詰まりなどの異常時にアラームを飛ばすなどの仕組みもあり、水管理の工数を大幅に削減することができます。

<水位調整IoTシステム「パディッチ」の紹介動画>

(6)元エンジニアの個人農家が作成した「きゅうり仕分け機」

静岡県のある個人農家の方が、Googleの深層学習ライブラリ「TensorFlow」を利用して、きゅうりの等級仕分け機を制作しました。9000枚の写真をディープラーニングで学習させ、仕分け台においたきゅうりを、9つの等級に選別できるシステムになっています。この方は元エンジニアであり、カメラ、中古PC、マイコンンボードなど、全部で10万円以下で自作したとのこと。この仕分け機の詳細は、Googleのブログ(英語)でも紹介されています。


(7)発情、疾病兆候などの情報を検知する牛のウェアラブル端末

ベンチャー企業のファームノートは、牛群管理システムのクラウドサービス「Farmnote」を提供しています。さらに牛の首に取り付けるウェアラブル端末も開発しており、これを利用することにより、リアルタイムに牛の活動情報を収集可能な「Farmnote Color」も提供しています。ウェアラブル端末から取得したデータは牛群管理システムに保存され、繁殖に必要な発情情報、疾病兆候など注意すべき牛を検出し、管理者のスマートフォンなどに通知します。

牛の発情はタイミングがあるため、従来の目視では、夜中など管理者が気が付かないケースがありました。発情期を逃すと、その分、牛の妊娠・出産が遅れ、生乳が絞れる時期も遅くなります。牛のウェアラブル端末の利用により、管理者の負荷を減らすと同時に、ビジネスチャンスを逃さない仕組みを実現しています。

図表5 Farmnote Colorのサービス概要
Farmnote Color
出典:ファームノート(https://farmnote.jp/)


<ブロックチェーンを活用したAgTech事例>

(8)ブロックチェーン技術を活用した、作物のトレーサビリティ情報の管理

前述のアグリドローンと同じく、オプティムの開発したソリューションです。生育作業履歴、流通履歴、資材調達履歴などの情報を、分散型DBで共通管理することにより、「オープン」「高効率」「高信頼」なサプライチェーンを実現するトレーサビリティプラットフォームとなっています。

西俊明(にし・としあき)

慶應義塾大学文学部卒業。合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション代表社員/CEO。富士通株式会社で17年間にわたり、営業、マーケティング業務に従事。2008年、経済産業大臣登録・中小企業診断士として独立し、2010年、合同会社ライトサポートアンドコミュニケーション設立。専門分野は営業・マーケティング・IT。Webマーケティングやソーシャルメディア活用のテーマを中心に、8年間で200社以上の企業や個人事業主のマーケティングのコンサルを実施、180回以上のセミナー登壇実績をもつ。著書に『あたらしいWebマーケティングの教科書』『ITパスポート最速合格術』『高度試験共通試験によくでる午前問題集』(技術評論社)、『絶対合格 応用情報技術者』(マイナビ)、『やさしい基本情報技術者問題集』『やさしい応用情報技術者問題集』(ソフトバンククリエイティブ)、『問題解決に役立つ生産管理』『問題解決に役だつ品質管理』(誠文堂新光社)などがある。

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