内部対策も忘れずにマイナンバーを狙うのは、残念ながら外部のハッカーだけではありません。ベネッセコーポレーションの顧客情報漏えい事件に代表されるように、内部関係者による流出も数多く起こっています。
しかしながら日本の場合、「うちの社員に限って」と思いたい企業が多いのかどうか、内部対策については遅れているケースが多いようです。
「社員や内部関係者、ビジネスパートナーといった内部の故意による情報セキュリティ脅威に対しては、外部からのセキュリティ脅威と比べ、懸念度が低い結果となった」。今年4月にIDC Japanは「2015年 国内情報セキュリティユーザー調査」を発表していますが、その結果を受けて、同社ソフトウェア&セキュリティグループ リサーチマネージャーの登坂恒夫氏はこう指摘しています。
裏返していえば、内部犯行を実行しやすい環境になっている日本企業が多いということです。
もし、そのまま放置しておけば、あなたの企業が第2、第3のベネッセ事件の当事者になりかねません。
「情報漏えい対策は“内部対策”から」とトレンドマイクロ マーケティング本部 フィールドマーケティング部 エンタープライズマーケティング課 担当課長代理の松橋孝志氏はアドバイスしますが、誤操作による流出なども含め、実際には、内部に起因する情報漏えいのほうが多いことをセキュリティ担当者は肝に銘じておくべきでしょう。
マイナンバーなどの重要情報の流出防止に効果的なDLPそれでは、マイナンバーのような重要情報の流出を防ぐための内部対策として、どのようなセキュリティソリューションを多層防御の1つとして加えるべきでしょうか。
ガートナーのシモンズ氏が推奨しているものの1つがDLP(Data Loss Prevention)です。「DLPは非常に優れたツールなので、ぜひとも導入を検討してほしい」。
DLPとは、機密情報などの漏えい防止のためのソリューションです。内部対策というと、USBメモリなどの利用制限をまず思い浮かべる人が多いかと思いますが、DLPの場合はデータそのものを監視することで情報漏えいを防止します(関連記事「機密情報の漏洩を防ぐ「DLPソリューション」の基礎知識」)。
例えば、マイナンバーやクレジットカード番号などが含まれたファイルをメールで送ろうとすると、それを認識し、警告メッセージを発したり、ブロックすることなどができるのです。
マイナンバーのような重要情報の漏えいを防ぐうえで、大変強力なソリューションといえます。
ただ、すでに多くの企業が導入しているサンドボックスに対して、DLPを導入済みの企業は、IDC Japanが2014年11月に発表した調査結果によると、4.7%にとどまっています。
DLPの導入がこれまで進んでいない理由の1つとして、IDC Japanは「導入費用」を挙げています。しかし、比較的低コストに導入する方法もあります。例えば、トレンドマイクロでは法人向けウイルス対策製品「ウイルスバスター コーポレートエディション」のオプションである「Trend Micro 情報漏えい対策オプション」の1機能としてDLP機能を提供しています。マイナンバーを含む特定個人情報がファイル内に入っていないかをスキャニングして検出・ブロックできます。また、同オプションは、USBメモリなどリムーバブルストレージの利用を制限する機能も備えています。
UTMの1機能として、DLPを導入するやり方もあります。ウォッチガードやチェック・ポイントなど、多くのUTMベンダーが、UTMの1機能としてDLPを提供しています。
マイナンバーは独立したネットワーク・ゾーンに保管ガートナーのシモンズ氏はまた、「ネットワーク・ゾーニング」もマイナンバーを保護するうえで効果的と指摘しています。
社内ネットワークをいくつかのセグメントに分け、マイナンバー関連の機密データを独立したネットワーク・ゾーンに置くのです。これにより、外部のハッカーにせよ、内部の犯罪者にせよ、機密データのあるゾーンに到達できなければ、マイナンバーを盗むことはできなくなります。
さらにシモンズ氏は特権アクセス管理の重要性も説きます。ベネッセの事件は、管理者権限を持った内部関係者が個人情報を持ち出しました。マイナンバーにアクセスできる権限はより厳重に制御・監視する必要があります。
出典:今年7月に都内で開催されたイベント「ガートナー セキュリティ&リスク・マネジメント サミット 2015」での米ガートナー コンサルティング バイスプレジデント ダグ・シモンズ氏の講演資料より |
以上、多層防御をさらに強固にするために、ぜひ導入したいセキュリティソリューションを紹介してきました。マイナンバー制度は、企業にとって、自社のセキュリティ対策をあらためて見直す良い契機ともいえます。これを機会に、セキュリティをしっかり強化しましょう。