2020年には500億ものデバイスがネットワークにつながるとも予測されるなか、IoT(Internet of Things)に関する取り組みが様々な企業で加速している。
世界の人口は現在約70億人だが、500億ものデバイスがネットワーク化された世界とは、どんな世界だろうか。「当然、途上国の方もいるので、我々の身近の10~30のモノが2020年にはネットワーク化されるということ。世の中のあらゆるモノがネットワーク化されてもおかしくない時期に来ていることを認識する必要がある」
野村総合研究所 IT基盤イノベーション事業本部 基盤ソリューション企画部 主任研究員の武居輝好氏は、2014年11月開催のイベント「Embedded Technology 2014」での講演「IoTによる新ビジネスの可能性」のなかで、このように述べている。つまり、IoTに取り組まない企業は、多くのビジネス機会を逃しかねないということだ。
では、企業はIoTを自社のビジネスにどう取り込んでいけばいいのか。武居氏の講演から、企業のためのIoT活用のポイントを紹介していく。
モノのネットワーク化の一例。コンタクトレンズや歯ブラシのネットワーク化もすでに始まっている。ちなみにグーグルが医薬品メーカーと共同開発するコンタクト型デバイスは糖尿病患者向け。グルコース値と血糖値には相関があり、涙の中に含まれるグルコースの量をセンシングする |
計測機器のネットワーク化により遠隔地の専門家が正確・迅速に分析
武居氏によれば、企業によるIoTの活用目的は、3つに類型化できるという。(1)製品・サービスの付加価値向上、(2)アフターサービスの充実、(3)オペレーションの改革の3つである。同氏はそれぞれについて先行事例を挙げながら解説した。
企業によるIoTの活用事例の類型は3つ |
(1)の製品・サービスの付加価値向上とは、自社の商品などをネットワーク化し、従来なかった新しい機能などを付け加えることだ。主に、小型機器メーカーや消費者向け製品などに当てはまる。
このIoTによる付加価値向上の例の1つとして紹介されたのは、計測機器メーカーであるThermo Scientific社のケースだ。同社は、環境大気を調べるためのデバイスをネットワーク化した。消防士や警察官などが火事現場等で活用する計測用端末である。
大気成分の計測機器をネットワーク化したThermo Scientific社のIoT事例 |
ネットワーク化される以前、危険な化学物質が高濃度で漏洩していないかなど、現場の大気の状況について、現場の隊員たちは自ら判断していた。しかし、現場の隊員たちは、化学物質などの専門家ではなく、常に正確かつ迅速に測定結果を分析できるわけではない。
そこでThermo Scientific社は、計測用端末をネットワーク化し、消防や警察向けに化学物質の漏洩分析サービスを開始した。現場で測定されたデータはThermo Scientific社のサポートセンターに送信され、専門の分析官が詳細に分析。消防や警察の指揮本部に分析結果をフィードバックするのだ。
「もし、その場に10分いると命に支障があると分かれば、すぐ指揮本部が現場からの退避を指示できる。これまで隊員自身の経験に頼っていた大気データの分析を専門家がやることによって、より正確・迅速に危険性を判断できるようになった」と武居氏。まさに付加価値の向上である。
また、こうしたIoTへの取り組みは、Thermo Scientific社のビジネスモデルの変革にもつながっている。従来は計測機器を販売して終わりだったが、月額課金のサービスにより継続的に収益を得ることが可能になったのである。