――IoTが、ビジネスを推進させる新しい力として注目されています。
鈴木 確かに利用は広まってきています。しかしデバイスの進化が早く、従来のシステムづくりの手法ではデバイス側の進化についていけていないように感じています。システムの作り方、技術をビジネスに活かすための考え方を変えていかなければなりません。
そもそもIoTはまだ誤解されていて、本当のポテンシャルを発揮できている例はごく少数しかないと私は考えています。
データ収集と可視化だけがIoTの持つ力ではない
――IoTが誤解されているとは、つまりどういうことでしょうか。
鈴木 IoTは、センサーなどのモノがインターネットにつながる技術です。ですからどうしても、センサーから情報を収集し、蓄積する部分に注目が集まりがちです。実際、データを収集して見える化したというだけで満足している利用例を数多く目にします。
しかし、IoTを活用したビジネスの本質はそこにはありません。多くのデータを収集することができるようになったことを受けて、そのデータをビジネスにどう活かしていけばいいのかを考える必要があります。
実は似たような誤解を、私たちはかつて経験しています。今では当たり前のように普及したスマートフォン、タブレットなどのモバイル活用です。モバイルとはスマートフォンやタブレットを使うことだと思いこみ、Webサイトやサービスをスマートフォンからも使えるようにすることで、モバイルを活かしたビジネスを実現できたと考える方が多くいらっしゃいました。しかし本当にモバイルを活かした革新的なビジネスは、デバイスにとらわれるのではなく、人が動きながら何かをするというモビリティの本質に目を向けるところから生まれました。そこに、これまでなかった価値を見つけ出した企業が、モバイルビジネスで成功しています。
同じように、IoTもまだ過渡期なんだと思います。これからはデータを収集し、それを表示しておしまいではなく、集めたデータをどう分析し、ビジネスの価値をどのように高めていくか。その知見が求められるようになるでしょう。
IoTの力を引き出すにはコンポーザブルなシステムが必要
――IoTへの誤まった認識を改め、集まったデータをビジネスに活かすための知見を培っていかなければならないということですが、それは簡単にできることなのでしょうか。
鈴木 もちろん、一朝一夕にとはいかないでしょう。まずは、システムづくりの手法を変えていかなければなりません。
IoTの世界は進化が早いので、たとえば3年後に必要なシステムを今から予想して作ることは誰にもできません。しかし十分な柔軟性を持ち、そのときどきの要件に対応できるシステムであれば、3年後にもビジネスの力として活用できるでしょう。
ここで大切なキーワードは、コンポーザビリティです。コンポーザブル、すなわち、色々なコンポーネントを組み合わせ、組み立てや組み換えが容易であることが、これからのシステムでは重視されるようになるはずです。コンポーザブルなシステムであれば短期間でITの力をビジネスに活用し始めることができ、IoTデバイスの進化にも、ビジネスの変化にも対応していけます。
――高度な要件を積み上げて時間をかけて開発するのではなく、そのときどきで必要なコンポーネントを採り入れることができるITシステムにすべきということですね。そうした強みを持ったソリューションを具体的に紹介していただけますか?
鈴木 IBM IoT Cloud on Bluemixなどは、IoT向けに提供されているコンポーザブルなクラウドプラットフォームの代表例と言っていいでしょう。既に数多く用意されているコンポーネントを組み合わせて、システムを構築可能です。IBMのクラウドプラットフォームであるBluemix上で提供されているので、少ない初期投資と準備期間でスタートできます。
用意されているコンポーネントを使えば、IoTデバイスから集められたデータの分析や、他のサービスと連携してデータの活用範囲を広げることも簡単です。(図表1)
図表1 IBM IoT Cloud on Bluemix |
これまで企業のビジネスを支えてきたシステムは、大きくふたつに分けられます。社内の情報を保護し、ビジネスに活用するSoR(System of Record:システム・オブ・レコード)と、顧客や取引先など社外の関係者とビジネスを結ぶSoE(System of Engagement:システム・オブ・エンゲージメント)です。そこに新たにIoTが加わり、これらを有機的に結び付けて、より大きな力にしていかなければなりません。IBM IoT Cloud on Bluemixを中心にして、社内外のシステムでデータを活用できれば、データの持つ価値も高まるでしょう。