野村総研の北氏に聞く「SIMロック解除」と「クーリングオフ」問題の本質とその影響

SIMロック解除の義務化、クーリングオフの導入、MVNOの本格参入など携帯電話市場は大きな構造変化の局面にある。今後どのような変化が予想されるのか。野村総合研究所(NRI)の北俊一氏に、市場の現状と今後の方向性を聞いた。

――2015年度からSIMロック解除が義務化され、併せて、クーリングオフ制度も導入されます。

 携帯電話は料金プランやサービスが複雑・多様化しており、なかには内容を十分に理解しないまま契約してしまうことがあり。それがトラブルにつながっています。

購入から一定期間内であれば契約を解除できるクーリングオフを導入すると、SIMロック端末の場合、回線契約と端末は密接不可分と見なされ、回線(SIMカード)と端末の両方が返品されることになります。回線はともかく、端末はいったん使うと「中古品」となるため再び店頭で販売できず、販売代理店あるいはキャリアは返品リスクを被ってしまいます。

これに対し、SIMロックを解除した端末の場合、回線契約だけを解除し、端末はお客様の手元に残り、MVNOを含む他キャリアのSIMを挿せば使えるため、返品リスクも軽減されます。このように、SIMロック解除とクーリングオフは消費者保護などの観点から連動する立て付けになっています。

――店頭販売の商品がクーリングオフの対象となるのは、前代未聞のことではありませんか。

 まさにその通りです。クーリングオフは基本的に、電話勧誘販売や訪問販売といった“不意打ち性”のある販売方法が対象です。

従来、電気通信サービスでは光ファイバーの行き過ぎた販売勧奨が問題視されてきましたが、クーリングオフの対象となることは免れてきました。ところがここにきて、携帯電話の店頭販売におけるトラブルが急増しています。消費者団体などからの報告によると、「スマートフォンを買いに行ったのに、必要のないフォトフレームや体組成計、アプリをたくさん売りつけられた」といった契約にまつわる苦情や相談が圧倒的に多いようです。

看過できない状況であることからクーリングオフを入れざるをえなくなったわけで、業界関係者は猛省する必要があると思います。

――行き過ぎた販売合戦やキャッシュバックなど携帯電話業界は近年、深刻な問題点が露呈しています。その原因はどこにあるのですか。

 市場が成熟したにもかかわらず、キャリアのKPI(重要業績評価基準)は回線契約数に重点が置かれたままです。

キャリアから販売代理店に支払われる手数料体系はこの20年間ほとんど変化しておらず、回線や端末を多く売り、サービスやアプリを多く付けることが重視されています。最近では来店客のCS(顧客満足度)に関するアンケート結果が代理店の評価に一部反映されているとはいえ、全体的には相変わらず「どれだけ売ったか」が評価軸となっているのです。

しかし、携帯電話は持つべき層にはすでに行き渡っており、大きな成長は期待できなくなっています。そこで各社ともフォトフレームなど低ARPU回線の製品を抱き合わせで販売して回線数を増やそうとしているのですが、これらは2年間使わずに「寝かせて」いれば無料とはいえ、ユーザーのニーズを無視した消費者不在の売り方です。

MNPや純増の数字を増やして「ナンバーワン」をアピールしようとするあまり、こうしたことが日常的に行われているこの業界は、“制度疲労”を起こしていると言わざるをえません。

ショップスタッフの中には、お客様が望まないものを無理やり売らされることにストレスを感じて辞めてしまうケースもあります。その結果、携帯販売代理店業界のイメージが悪化して不人気職種となり、人材不足を招く遠因ともなっています。

月刊テレコミュニケーション2014年8月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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