「農業M2Mの目的は可視化ではない」――IoTで農作業の自動化に挑む

「いかに作業を省力化するか」――。日本農業の課題に挑むルートレック・ネットワークスはM2Mとクラウドで、土壌の状態をセンサーで把握して水と肥料を自動供給する仕組みを実現した。

スモールスタートできる価格設定

ZeRo.agriは、(1)土壌センサー、(2)培養液をハウス内の土壌に供給するコントローラー、(3)センサーが取得したデータをクラウドに送るとともにクラウドから送られる培養液の供給量や供給タイミングを培養液コントローラーに伝達する通信機器、で構成されている。センサーとコントローラー間の通信はWi-Fiを利用、コントローラーとクラウド間の通信は3G回線を利用している。

EC(電気伝導値)と地温を計測する土壌セ ンサー
EC(電気伝導値)と地温を計測する土壌センサー

センサーで計測した日射量と土壌のデータ(地温、水分量、土壌のEC(電気伝導度)の値=土壌に存在している肥料分の含有傾向を示す値)は、10分ごとにクラウドに送られる。クラウドはそのデータに基づいて、培養液を与えるタイミングが来たら培養液コントローラーに指示を出す。作物の生育状況を見て農家はタブレットの画面で培養液供給量を調整することができる。それによって、適正な肥料を適正な時期に適正な量だけ与えることが可能となる。

タブレット画面の例
タブレット画面の例

(3)の機能を担う「ZeRo.クラウド」は、コストを抑える観点からマイクロソフトのパブリッククラウドであるWindows Azureを採用した。センサー、培養液コントローラー、通信機器などを含むZeRo.agriの初期導入費用は1台当たり120万円から、クラウド利用料金は月額1万円からという料金設定だ。

佐々木氏によれば、10~50アールの中級規模のハウス栽培農家の場合、120万円ほどの初期投資を「高いと思う農家は少ない」という。10アールでトマトを生産している農家の売上は年間300万円ほど。収穫量が20%アップすると売上は60万円増加する。20アールの農地なら年間の売上は600万円ほど。20%増加すれば売上は720万円に増える。

実際にZeRo.agriを導入しているのは20~30アールの農地を持つ農家が大半だという。導入後、1年から1年半後に減価償却できる計算だ。M2MプラットフォームのZeRoと同じく、農家が少額投資で農業クラウドをスタートできるよう配慮した価格だ。

ZeRo.agriの提供開始から1年後の2014年4月には機能を追加した「ZeRo.agri plus」を製品化した。強化ポイントは、1台のZeRo.agriで最大6区画まで細かい単位で培養液のコントロールを可能にしたこと。

農家は、同じ作物でも一度に植えるのではなく、何度かに分けて植えている。また、同じハウス内でも場所によって陽当たりや気温、水はけに違いがある。そのため、区画を細かく区切り、培養液の供給をコントロールしたいという要望が寄せられた。

また、作物の生育状況をタブレットのカメラで撮影し、クラウドで管理したいという声も同社に届いた。目的は、農家が自分で生産記録を残して次年度以降の生産に役立てることと、自治体やJAの営農指導員との相談に用いることだ。

営農指導員は作物を見れば対応が必要かどうかわかるというが、その数は不足しており、農家の要望に応じきれないのが現状だ。クラウドで作物の写真を共有する仕組みがあれば、その課題が解決できる。営農指導員はどこにいても作物の状態が確認できるため、遠隔相談によって1人の営農指導員が多くの農家の指導に当たることが可能になる。

月刊テレコミュニケーション2014年7月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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