“常温・常圧”で動作する光量子コンピューターの実現へ
そして島田氏が「エネルギーの限界突破」に続いて説明したのが、量子コンピューターを用いた「計算処理の限界突破」だ。
従来のコンピューターは、例えば迷路を解く場合、脱出ルートを1本ずつ調べ、出口が見つかるまで探索し続ける必要がある。そのため、迷路が複雑になるほど、膨大な計算回数が必要になる。一方、量子コンピューターは「すべての脱出ルートを同時に探索し、出口につながる道だけを残せる」ため、計算回数を大幅に削減できると島田氏は話した。
また、従来のコンピューターが「0」か「1」のいずれか一方しか表せないのに対し、量子コンピューターは「0」と「1」が重ね合わさった状態を取れる点も大きな特徴の1つ。つまり量子コンピューターでは、量子ビット数が増えれば、表現できる状態は指数関数的に増大していくのだ。
島田氏によれば、大規模かつ複雑な問題を解くには、100万~1億規模の量子ビット数が必要になるという。ただ現状では、IBMが開発した超電導量子プロセッサの「1121量子ビット」が最大で、100万量子ビットには依然として大きな隔たりがある。

量子ビット数が「1121」が最高
島田氏はその原因について、「量子コンピューターには極低温や真空といった厳しい動作条件が求められるため、大掛かりな装置が欠かせず、それが量子ビット数の拡大を妨げている」と分析した。
こうした課題を解決するため、NTTでは“常温・常圧”で動く光量子コンピューターの研究開発に取り組んでいる。冷却設備や特殊な制御装置が不要になるため、超伝導や中性原子などの他方式と比較し、約1/10~1/100まで消費電力を抑えられるという。

光量子コンピューティングの特徴
2030年までに「100万量子ビット」目指す
基調講演の同日には、東京大学発スタートアップのOptQCと光量子コンピューターの社会実装に向けた連携協定を締結(参考記事)。2027年までに1万量子ビット、2030年までに100万量子ビットクラスの光量子コンピューターの実現を目指すとした。

実用化に向けたロードマップ
また、光量子コンピューターにおけるNTTの強みは、「非常に良質な性質を持つ光を生成可能な『量子光源』にある」と島田氏。これには、「NTTが光通信で培ってきた光の増幅技術や、光の性質を変化させる技術が寄与している」と述べた。
なお、1万量子ビット規模で大都市圏の交通・物流の最適化が可能になり、100万量子ビットで空気中の窒素から肥料を生成する新触媒の開発、さらに1億量子ビットに達するとパーソナライズ化された新薬の開発が行える可能性があるという。
この光量子コンピューターと前述した光電融合技術により、「AI時代のみならず、量子時代のコンピューティング革新を通じて、サステナブルな未来の実現に貢献していきたい」と島田氏は最後に締めくくった。










