いままでは“人が通過するだけ”の町だった。それを、公衆Wi-FiとAR(拡張現実)アプリで変えたい――。
沖縄県南部のほぼ中央に位置する約10平方キロメートルの小さな町、南風原町(はえばるちょう)。県都那覇市に隣接するうえ、沖縄自動車道をはじめとする主要道路が交わる“地の利”から人口が流入しているこの町で、さらなる産業振興に向けた取り組みが進められている。
図表 沖縄南部の主要道路と南風原町 |
力を入れるのは観光PRだ。利便性が高い一方、“沖縄県で唯一海に面していない町”というハンデも抱える。観光産業こそが地域活性化の軸と言っていい沖縄にあって、「これまでは、観光地としてアピールしようという意識もなかった」と、産業振興課・商工観光班長の比嘉純子氏は振り返る。
今回の取り組みは、経済建設部産業振興課・商工観光班の比嘉純子班長(左端)、新城拓郎氏(中央)らが中心に推進。産業振興課の知念功課長(右端)や祝嶺春俊主事(右から2番目)らは、農業をはじめ他産業の活性化にも期待を寄せる。総務部長の新垣吉紀氏(左から2番目)は、行政サービスを提供するインフラとして活用するプランも描いている |
「スマホ向け」軸にPR戦略
以前は観光客向けのパンフレットもWebサイトもなかったという南風原町だが、ブランド農産物、琉球王朝を起源とする伝統行事や工芸品などPRすべき資源は少なくない。
拠点産地の認定を受ける「津嘉山(つかざん)完熟カボチャ」「南風原かぼちゃ」、県内一の生産量を誇る食用へちま、琉球かすりや南風原花織といった特産品とその工房等々、町の魅力を全国、そして海外に発信するツールとして着目したのがスマートフォンだ。
観光客が持つ端末へダイレクトに情報を届け、かつ、訪れた人達が楽しめるコンテンツを用意することで、「情報を発信できるものが何もないところから、全国、全世界にアピールできる状態へ一気にステップアップしたい」(比嘉氏)というのが南風原町の狙い。その要望を受け、NECとSIerのオーシーシー(沖縄県浦添市)が事業計画を立案。沖縄振興一括交付金を財源とした「やさしい観光地づくり推進事業」の一環として、ICTを軸とした観光振興への取り組みが2012年にスタートした。
実施内容は大きく分けて3つ。(1)観光地としてPRし誘客するための総合ポータルサイト、(2)訪れた観光客に無料の高速インターネット接続サービスや、情報・コンテンツを提供する公衆Wi-Fiネットワーク、そして(3)スマートフォン用観光アプリケーションだ。2012年10月から2013年2月にかけて設計、構築を行い、3月から稼働。これらと並行して、イベント・ツアーの実施、チラシ配布や広告掲載などネット以外のPRも実施した(アドスタッフ博報堂が担当)。