試行錯誤の連続だったITコミュニケーションツールの導入
だが、すべて順風満帆に行ったわけではない。むしろ試行錯誤の連続だった。社内情報交流サイトとして社内SNSを立ち上げたが、「使いづらい」「業務で必要性を感じない」などといった声が上がり浸透しなかった。
また、部門ごとにインスタントメッセージング(IM)を導入したものの、利用する社員は全体の約30%に留まった。「みんなが立ち上げていないと使えない」「手動でIMを立ち上げるのが面倒」などといった意見が大半を占めた。
さらに、配布したタブレット端末は、メールやスケジュールのチェックができず、イントラネットにもつなげられなかった。「どういうシーンで使えばよいかわからない」と、利用されなくなったのは当然の帰結だった。
「ツールを導入することと、それが活用されることはイコールで結ばれていないことを思い知った」と堀氏は反省の弁を述べる。
“固定中心”から “モバイル中心”の環境にシフトする
こうした失敗を乗り越えてKDDIがたどり着いたのが、デバイスや通信手段を組み合わせ、いつでもどこでもオフィスにいるかのように働けるコミュニケーションスタイル。「“その場”で“最適な”情報にリーチできる環境だ」と堀氏は強調する。
KDDIがたどりついた新しいワークスタイル |
堀氏によると、このコミュニケーションスタイルを実現するためのポイントは、「インフラを整える」「使いやすい設計にする」「全員が使う状態にする」――の3つだという。
「インフラを整える」とは、デスクトップPCや固定電話機といった“固定中心”の環境を、シンクライアントやスマートデバイス、無線LAN、フリーアドレスといった“モバイル中心”の環境にシフトすること。「モバイル中心にすることで、時間や場所、デバイスなどといった制約から解放される」(堀氏)。
固定中心からモバイル中心の環境へシフト |
「使いやすい設計にする」とは、アドレス帳を起点とした“人中心”のシステム設計にすること。アドレス帳にはプレゼンス機能があり、相手の状況を確認したのちにコミュニケーション手段を選択することができる。社員に煩雑な操作を強いない工夫もしている
「全員が使う状態にする」とは、啓蒙とシステム上の工夫によりユーザー数を最大化すること。ユーザー数が少ないと利用価値が低くなるという悪循環に陥る。とにかくユーザー数を増やして利用価値を高め、好循環のサイクルを生み出していくことが重要だ。「そのためには、社員が使いたくなる仕組みを作る必要がある」(堀氏)。
ワークスタイルを変えるのは意思決定のスピードアップを図るため
それでは、KDDIのワークスタイルはどう変わったのだろうか。「まずは、オフィスが変わった」と堀氏は言う。モバイル中心の環境にすることで、フリーアドレスやフリースペースなど、社員が自由に移動して働ける場を構築。プロジェクトごとに関係者が即座に集まってミーティングを行うなど、“人”と“情報”がつながりやすいオフィス環境になった。
営業担当者の提案スタイルも変わった。パンフレットをデジタル化することで大量の資料を持ち歩く必要がなくなり、ペーパーレス化も進んだ。また、タブレット端末を使ってどこでもWeb会議を開けるようになったことで、顧客訪問時に遠隔地にいる技術者や専門家を打ち合わせに参加させることができるようにもなり、営業担当者の機動性が向上した。
ワークスタイル変革で提案スタイルが変わった |
会議も変わった。以前は参加者全員が1つの会議室に集まる必要があったが、Web会議で別々の場所にいてもミーティングが開けるようになった。これにより移動時間が削減され、時間の有効活用にもつながっている。
ワークライフバランスも変わった。裁量労働制やテレワーク、スマートデバイスのBYOD(私用端末の業務利用)を導入したことで、仕事と私生活の調和が取れるようになった。
スピードも変わった。営業担当者が顧客訪問時に即決するように要請された場合、以前であればオフィスに戻り、上司の確認を取らねばならなかったが、Web会議を利用してその場で上司の確認を取って顧客に回答できるようになった。「商談スピードが上がり、その結果として成約率もアップした」(堀氏)。
講演のまとめとして堀氏は、「なぜワークスタイルを変えるのか、その理由は意思決定のスピードアップを図るためだとKDDIは考えている」と述べた。さらに同社のFMCサービスとシスコシステムズのコラボレーションを融合したソリューションや、新たな働き方を実現するオフィス向け携帯電話サービス「オフィスケータイパック」を用意していることを紹介。「ワークスタイルの変革はKDDIに任せてほしい」とアピールした。