試験の自動化も課題に
Wi-Fi 7の登場によるWi-Fiの性能向上は、Wi-Fiデバイスの開発に用いる測定・テストソリューションの進化も促している。
増原氏は、Wi-Fi 7対応デバイスの開発の課題として、①6GHz帯や320MHzの帯域幅などのアナログ特性の測定への対応、②外部ノイズの影響を強く受ける4096QAMで精度の高い測定ができる設備の確保、③マルチRUなどMACレイヤーを含む検証への対応の3つを挙げる。アンリツでは、送受信特性評価に用いられる無線LANテスター「MT8862A」をWi-Fi 7対応にする際、これらの課題に対処している。
大竹氏はWi-Fi 7デバイスの性能検証における「シグナリング試験」の重要性を説く。
「既存のWi-Fi端末の試験装置は、テストモードで疑似的な波形を発生させて端末の評価を行っているが、MLOやマルチRUの動作などの評価にはプロトコル層を含む実環境に近い信号を用いたシグナリング試験が必要になる」
キーサイトではAP・端末双方のシグナリング試験に対応する試験装置「E7515W UXM」の展開に力を入れているが、この製品は4G/5G向けの試験装置をベースにWi-Fiの試験機能を拡張させたものだという。
またWi-Fiの活用領域が拡大すれば、多様なWi-Fiデバイスが必要となり、多品種少量生産が求められる。
そこで重要になるのが試験の効率化である。多くの新機能が追加されたWi-Fi 7では、そもそも開発したデバイスの検証負荷が増している。Wi-Fi 7対応デバイスの充実に向けては、試験の効率化が1つのカギを握る。
「測定のスキルを持つ人材の確保が難しくなる中で、試験を効率化し短時間で終わらせることが、コストを抑える意味でも重要」。丸文の藤井遥紀氏はこう述べたうえで、「自動化がその解決策になる」と強調する。
その丸文が提案するのが、英スパイレント社の自動化ワイヤレステストベッド「Octobox」だ。Wi-Fi 7対応デバイスを含む、多数のWi-Fiデバイスの試験を効率的に行える。
図表2 AMC Cloudの概要
増大するNTNの端末開発
スペースX社のStarlinkの登場をきっかけに、近年、測定器の新たな市場として注目されているのが、NTN(非地上系ネットワーク)だ。
今春KDDIがスマートフォンと直接通信できる「au Starlink Direct」を開始、さらにNTTグループやソフトバンクがHAPS等を用いたサービスを予定するなど、今後ますますNTN向け測定器市場は拡大していくと期待されている。
「スマートフォンメーカーは競争上、多くの機種をNTNに対応させる」(キーサイトの宮下一馬氏)、「自動車産業がNTNに非常に強い期待を持っている」(増原氏)
こうしたNTNには、独自の要件がある。その1つが、衛星と地上の端末との位置変化に伴う周波数の変動(ドップラーシフト)への対応だ。「スマートフォン向けのサービスでは、ドップラーシフトなどに対処するために、独自仕様を用いるものの他に、ネットワークの衛星上で処理を行い一般的な端末を利用するものや3GPPで標準化された規格がある。今後はより柔軟で拡張性の高い3GPP標準の規格が伸びていくのではないか」(アンリツの島川展明氏)
NTN向けの測定器で最も広く使われることになるのが、端末のRF性能の評価や疑似基地局を使った受信機能の評価を行う端末開発用の製品だ。これらは4G/5G向けに展開されている製品にNTNならではの要件を付加したもので、多くはソフトウエアアップグレードで導入できる。
図表3 NTNのネットワーク構成