<特集>企業・自治体のための衛星通信「超」入門基地局が日本の空を飛ぶ日 2026年のHAPS商用化へ最終コーナー

空飛ぶ基地局「HAPS」の商用化が来年に近づいている。ともに2026年中のサービス開始を目指すNTT/Space Compassとソフトバンクは、大きく異なるアプローチで最終コーナーへ突入しようとしている。

音声・動画とリモセンが強み

特に災害対策においては、音声通話が可能な点がHAPSの強みになり得る。衛星とスマホの直接通信も始まってはいるが、一部の対応端末に限られるうえ、SMSやテキストメッセージの送受信、位置情報の共有等しかできない。ソフトバンク プロダクト技術本部 ユビキタスネットワーク企画統括部 統括部長の上村征幸氏は先述の記者説明会で「通信キャリアが実施する災害対策としては、音声も含めてガラケータイプのお客様にも通信を提供しなければならない」と、HAPSの必要性を強調した。2026年に予定するプレ商用サービスは、被災エリアを対象に開始する計画だ。

その他にも様々な用途が想定されている。衛星通信と同様に、飛行機や船舶、僻地の施設でWi-Fiを提供するためのバックホール回線に使う、広範囲に分散または移動するIoTデバイスと接続するといった活用法だ。地上の電波が届きにくいドローン(飛行高度は150m未満)への通信環境の提供も、HAPSの役割として期待されている。

そして、通信以外にも有望なユースケースがある。リモートセンシングだ。 高精細画像で撮影・解析することで、地表で起きている事象を詳細に把握できる。LEOよりも地表に近いうえ、同じエリアに長期間滞空するHAPSはこの用途に適している。

「定点観測が可能で、リアルタイムのデータが取得できる」と川田氏。後述する機体に搭載を予定している解像度18cmカメラなら、「クルマが走行している様子まで判別できる」。交通状況の監視や広範囲のインフラ監視、災害時の状況把握などの用途を想定しているという。近年は、地球を周回する観測衛星が収集・蓄積したデータを農業や防災、環境モニタリング等に活用するケースが増えているが、HAPSならピンポイントにリアルタイム性の高い観測データを提供できる可能性がある。

ソフトバンクもHAPSの商用化時にはリモートセンシングを提供する予定だ。「上空20kmにおけるセンシングデータは非常に価値がある。災害時であれば救助活動や物資輸送、災害派遣方針の策定に役立てることが可能だ」(上村氏)

飛行船型で「3年前倒し」

このような利点を持つHAPSだが、商用化にあたってはまだ超えなければならない壁がある。Space Compass 宇宙RAN事業部 事業部長の平間康介氏は、「航空技術も通信技術も、どちらもさらに向上させなければならない」と話す。「飛行の安定性と長期間化、そして通信機能の高度化が必要だ」

Space Compass 宇宙RAN事業部 事業部長の平間康介氏(右)と、宇宙RAN事業部 事業開発部 担当課長の川田悟氏

Space Compass 宇宙RAN事業部 事業部長の平間康介氏(右)と、宇宙RAN事業部 事業開発部 担当課長の川田悟氏

HAPSで用いる機体には2つのタイプがある。飛行機のように揚力で飛行するHTA(重質空気)型と、気球・飛行船のようにヘリウムガス等の浮遊ガスを使って浮上するLTA(軽質空気)型だ。

ソフトバンクは2010年代後半から両タイプを開発。LTA型の開発で提携していたLoon社が2021年に事業撤退したことで、その後はHTA型の開発に絞ったと見られていたが、今回、Sceye社のLTA型を採用することを決めた。その理由を上村氏は「LTA型の技術的な成熟度が当初の想定以上に早く、日本上空での展開が3年ほど前倒しできると判断した」と話している。LTA型は大きな浮力が得られるため「ペイロードの積載容量が大きい」利点もある。

ソフトバンクが採用するSceye社のLTA型機体

ソフトバンクが採用するSceye社のLTA型機体

HTA型もLTA型も、太陽光発電で得られる電力を使ってモーターを動かし、プロペラを回して飛行する点は同じだが、LTA型のほうがより少ないエネルギーで高度を保てるため長期間の滞空に適する。一方、HTA型は高速飛行も可能で操作性に優れるが、電力消費は大きい。なお、電力は搭載した通信機器やカメラ等のシステム運用にも使う。

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