「CASEやMaaSは、もう古い」。
最近、アメリカ、ドイツ、フランス、中国、韓国、そして日本の自動車業界関係者と意見交換していると、そんな指摘をする人が少なくない。
CASEとは、C(コネクテッド)、A(自動運転)、S(シェアリング)、E(電動化)のことを指す。ダイムラー(現メルセデス・ベンツ)が2010年代半ばに提唱した次世代事業戦略に対するマーケティング用語だが、CASEは日本を含めてグローバルで一般名詞となった。
2010年代の米CESでCASEを強調するダイムラー(現メルセデス・ベンツ) 出典:筆者撮影・資料作成
また、MaaS(Mobility as a Service)もCASEとほぼ同じ時期にグローバルで広まった概念だ。北欧フィンランドの国策として体系化された、公共交通機関をITによって効率化し新たなサービス事業拡大につなげたことが普及のきっかけだ。
日本では、自動運転やシェアリング、ライドシェア等を絡めた国の実証実験が全国各地で実施されたことでMaaSに対する認知度が高まった。
ここ数年でCASEやMaaSによって、クルマと通信との親和性が一気に高まった印象がある。それにもかかわらず最近、CASEやMaaSに対して「オワコン(終わったコンテンツ)」のようなイメージがつき始めているのだ。約40年間にわたりグローバルで自動車産業の現場を巡ってきた者としては、驚きの展開である。
こうした市場変化を踏まえて、「クルマ×通信」の今後の流れを予測する。
きっかけは「GPS」
まずは、「クルマ×通信」に関するこれまでの流れを振り返っておきたい。大きく3つの転換期がある。
最初の転換期は、アメリカ連邦政府の許可を受けたGPSの民生利用が事実上始まった1995年だ。これにより、車載カーナビゲーションの精度が上がると同時に、車両の位置データを自動車メーカーや交通事業者が認識できるようになった。
同分野では日本が世界をリードする一方で、欧米ではPND(パーソナル/ポータブル・ナビゲーション・デバイス)と呼ばれる小型の後付け機器の普及が進んだ。
地図データ大手、オランダ「TomTom」の地図データ活用に関する展示(出典:筆者撮影)
衛星測位システムについては、GPSを含めて軍用が主な目的であり、その一部を民間に開放するという考え方が基本であることを、同分野の国際シンポジウムに出席して再認識した。
そんなGPSの成功を受けて、ロシアがGLONASS、中国はBeiDou、欧州ではGalileoの実用化が加速した。日本については、民間での活用を前提として、技術的にはGPSに準じる準天頂衛星の採用に至った。
こうした中、カーナビ地図を活用したデータビジネスが欧州を中心に広まり始めるという現象も生まれた。