組み込み機器の開発においては、例えばPCであればOSを買うだけで付随してくる(あるいは無料でダウンロードできる)さまざまなコンポーネント――フォントやWebブラウザ、フラッシュプレイヤーなど――のほとんどにライセンス処理が必要になる。しかも予め数千台、数万台分といった費用の支払を伴ってである。
一方、Androidはカーネルからミドルウェア、UI、Webブラウザなどの標準的なアプリまでがパッケージ化されている。ソフトウェアの開発期間とコストは大きく圧縮できる。
さらに、それよりも大きな魅力を感じるのがAndroid Marketの仕組みだと神代氏はいう。「今まで組み込みの世界では事実上不可能だったソフトウェアのアップデートや機能追加が可能になる。そこに大きなチャンスを感じている」。
端末の開発期間が短縮され、コストも軽減できて、かつ従来の組み込み機器にはなかったサービス展開も可能になる。コベンティブはAndroid採用IP電話機へのIPセントレックスサービスの提供、MIDを使った業務システムなどの開発を進めているが、同社ならずとも、これを契機として新たなビジネスモデルの確立を狙う企業は増えるはずだ。
豊富なJava開発者
中国の南京に本社を置くアーチャーマインド・テクノロジーは、モバイル端末・組み込み機器向けのソフトウェア開発を行っており、Androidを採用した電子ブックリーダーやカーナビゲーションシステムを開発している。すでに実用化間近にあり、Webブラウザや位置情報サービス、音楽・ビデオ再生、インスタントメッセージなどを搭載したAndroidカーナビが、間もなく中国メーカーの市販車に搭載される予定だ。
同社日本オフィスの及川寛氏(VP、ビジネスデベロップメント)によれば、「中国では現在、AndroidをGUI環境のみに使うケースが多いが、クラウドのサービスとの連携も日本に比べて先行している。多くの企業が実用レベルに達したソリューションを持っている」と語る。
携帯電話やスマートフォンでのサービスがそうであるように、端末と連携したアプリを作り込むには、小型の端末にリッチなGUI環境を構築し、かつしっかりとした枠組みをもったアプリケーションフレームワークが必要になる。
従来、通信キャリアやメーカーがその技術の凌ぎ合いを続けてきたところに、Javaによる多様な端末とアプリの開発環境を提供するAndroidが登場した。台湾などでもすでに多様なAndroid端末が作られており、サービスベンダーは安価かつ短期間にそうした端末を調達できる。さらに、C/C++などに比べれば、Javaの開発者人口ははるかに多い。自らが思い描くサービスを実現するために必要な端末とアプリを用意することは、従来に比べて格段に簡単になる。
公開間近の“拡張Android”
開発効率をさらに高めるための取り組みも進んでいる。
多様な端末開発が可能とはいえ、携帯電話向けのAndroidを“非電話系”の組み込み機器開発に利用するには、不足している要素も多い。そこでOESFは、組み込みシステム向けにAndroidのフレームワークを拡張して機能を追加したディストリビューション「OESF Embedded Master 1(EM1)」を開発し(図表1)、その成果を会員で共有。2月にはオープンソースとして公開する予定だ。
図表1 Androidのフレームワークの拡張 [クリックで拡大] |
また、会員企業その他の事業者による新サービスの立ち上げを促すため、アプリケーションの配信や課金の仕組みを標準化するSDKの開発も進行中だ。
こうした活動によりAndroid端末はさらに多様化していくだろうが、問題はどのようなサービスを展開するかだ。三浦雅孝氏は、「クラウドサービスとの連携が鍵になる。まずはAndroid端末で『デジタルリビング』を実現したい」という。
テレビ/PC/携帯電話をまとめて「3スクリーン」などと呼ぶが、三浦氏が思い描くのは、テレビよりパーソナルで、携帯電話よりも画面が大きく、PCよりも手軽な操作で使える「4つめのスクリーン」を備えた情報端末だ。ニュース配信や動画コンテンツの視聴といったクラウドサービスをそこで利用する。
端末のコスト競争力が高く、キャリアに依存しないアプリ配信の仕組みを持ったAndroidプラットフォームは、それを実現する有力な候補になるだろう。実際、前述のNTT東日本とNECビッグローブのサービスも、同様のコンセプトに立つ。
「一体化」がもたらす効果
クラウドと連携した質の高いサービスを提供できるか――。これこそがAndroidビジネスの鍵となるが、当然そこではネットワークの使い方が問題になる。
通信機能を持った端末と、そこに配信するアプリがあれば、どのようなネットワークを介してもサービスは成り立つ。ユーザーがネットワークを自由に選択してももちろんかまわないが、例えば通信キャリアが、あるいはサービス事業者がMVNOとして、端末・ネットワーク・アプリを一体的に提供することで、より付加価値の高いサービスが提供できる。
「ネットワークの使い方、設計にまで踏み込むことで、わかりやすく魅力的なサービスが提供できる」と語るのは、日本通信・常務取締役CMO兼CFOの福田尚久氏だ。