今年の夏は雷害対策を究める

落雷件数が増加した2008年以降、情報通信機器を誘導雷から守る雷サージ防護製品「SPD」が売れている。

「ゲリラ雷雨」という言葉がすっかり一般的になった2008年夏。土砂災害や洪水、交通網の麻痺を報じるニュースが世を騒がせたが、被害は必ずしも屋外に限ったものではない。オフィスや家庭内に目を移せば、電話やPC、サーバーなどの情報通信機器が雷による異常電圧の犠牲になる可能性も高まる。

気象庁の調べによると08年、例年に比して雷日数(雷が観測された日数)が特に増加したのが関東地方だ。東京都では7~8月の2カ月間に、06年(7日)の2倍強、07年(5日)の3倍となる15日を観測している。

被害を報じるテレビ番組等の影響もあり、雷害対策製品に関する問い合わせが急増、販売台数も増加傾向にあるようだ。雷サージから情報通信機器を防護するSPD(Surge Protection Device)製品「サンダーブロッカー」シリーズ等を製造・販売する昭電では08年、問い合わせ件数、売り上げが共に大きく伸長。ディザスタリカバリやBCM(事業継続マネジメント)の観点から、雷保護システムの導入検討を始める企業が増えているという。

昭電サンダーブロッカー
昭電のネットワークケーブル用SPD製品「SRP-TB-CAT5e」。CAT5eケーブルで使用できるほか、PoEにも対応。ネットワークカメラシステムの雷害対策にも適している

同社の事業推進部・事業推進課の相澤敦課長は「電源系の設備に比べて、あまり対策がなされていなかった通信系の設備に、雷保護の対策をするケースが増えている」と話す。

事業遂行に欠かせない機器が使用不能になるだけでなく、LAN内に被害が及べばサーバー内の重要データの損失等も招きかねない雷の被害。通信ネットワークの担当者も、その対策に関わる知識を身につける必要がある。

重要なのは「入口と出口」

まずは雷の被害と対策について整理しておこう。

雷の防護は、建物自体を直撃雷から守る外部雷保護システムと、近隣に落ちた雷の影響(誘導雷)で電源線や通信線等から建物内部に流れ込む雷サージ(異常電圧・電流)から機器を守るサージ防護に分けられる。ここでは後者について説明する。

雷サージが建物内部の機器を破壊する仕組みと、その対策を示したのが図表1だ。侵入した雷サージは、電圧の高いほうから低いほうへと流れる。電源線から通信線へ、あるいはその逆へと出口を求め、したがってその通り道に位置する機器が破壊されることになる。通信・放送設備や、LANにつながったあらゆる機器が破壊対象になり得る。

図表1 昭電の雷サージ防護デバイス「サンダーブロッカー」の仕組み(クリックで拡大)
図表1 昭電の雷サージ防護デバイス「サンダーブロッカー」の仕組み
出典:昭電資料を一部改変

この雷サージの通り道に迂回路を作り、安全に逃がしてやるというのがSPDの仕組みだ(図表1の右)。最近では、監視カメラや警備システムなど、建物外部から回線を引き込む機構が増えており、防護対象機器、回線の種別により多様なSPD製品が販売されているが、基本的な仕組みはみな同じである。守るべき対象を明確にし、雷サージの侵入経路(イコール放出経路)を把握して正しく迂回路を設置することが、大切な機器の防護につながる。

また、SPDメーカーの白山製作所は、このバイパス方式に耐圧トランスを組み合わせ、より確実に情報通信機器を防護する独自方式の「サンダーカットハイブリッド」(図表2)も販売している。

白山製作所のSPD製品「サンダーカットハイブリッド」

白山製作所のSPD製品「サンダーカットハイブリッド」

図表2 白山製作所「サンダーカットハイブリッド」の仕組み(クリックで拡大)
図表2 白山製作所「サンダーカットハイブリッド」の仕組み

なお、04年から低圧機器のサージ防護に関するJIS規格が整備されたことで、それまで各企業が独自規格で行わざるを得なかったSPDの選択・導入、運用も現在では統一基準の下で行えるようになっている。

段階的な対策も

「電源系、通信系、LAN系、放送系と、持分や取り扱い業者が異なる設備がオフィス内に増えていることが、サージ対策を難しくしている。業者の垣根を越えて総合的な対策をするのが望ましい」と語るのは、白山製作所の情報通信事業部・ソリューション営業部の綿貫恵二次長だ。

もちろん、部分的な対策も有効なことには違いないが、それについても本来はPBXやネットワーク機器の導入時に対策を施すのが理想であるのに対し、対策は後回しになりがち。十分な対策がなされている企業はまだまだ少数派である。現実的な方法としては、今年度は通信機器、来年度はLAN系というように防護範囲に優先順位を付け、段階的に雷対策を行っていくのもいいだろう。

前述のように、SPDは設置位置・方法を誤ると何の効果ももたらさない。そうしたケースも実際には相当数あり、確実な対策を実現するためにも専門家であるSPDメーカーの助けは必須の要素だ。昭電、白山製作所の両担当者は「何でも問い合わせてほしい」と口を揃える。

月刊テレコミュニケーション2009年5月号から一部再編集のうえ転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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