農村のICTインフラ整備の現状は? 地域支援策に注力する農林水産省

農林水産省がICTベンダーなどと連携しながら、農地向けの情報通信基盤整備に力を入れている。医療・教育・防災などにも活用する多用途化で持続可能なインフラを目指す地域も増えてきた。

「個別地区支援」に注力

坂氏によると、「制度創設後3年間で、34地区が支援を受け、通信基盤の整備に取り組んでいる」。

とはいえ、その多くはまだ「計画策定」段階で、施設整備に入っているのは3地区にとどまる。整備が本格化するのは、これからだ。

農地の通信基盤整備を推進するうえで問題になるのが、この「計画策定」の前段階──ICTを活用して農作業の効率化を図りたいといった地域のニーズを、具体的な施設整備・運用プランにまとめあげるプロセスだ。自治体の職員だけでは対応しきれないケースが少なくないのだ。

この課題をクリアする手立てとして農林水産省が力を入れるのが、官民連携の推進組織「農業農村情報通信環境整備準備会(以下、準備会)」による「個別地区支援」だ。

準備会は、事務局を務める農林水産省と、民間企業、ICTの活用で実績を持つ先進自治体などの「サポート会員」が連携して、農業・農村の通信基盤整備を検討・準備している自治体などを支援する。サポート会員は、昨年12月26日時点で106社/団体(うち民間企業は94社)に達しており、農機具ベンダーやNTT東西、KDDIなどが名を連ねる。

支援対象は、準備会にユーザー会員として加入している自治体や農業団体などで、約60団体に及ぶ。

準備会では、ユーザー会員の関心や取り組みの進展状況に応じて、活用事例の紹介、セミナーの開催、補助金の公募などの情報提供、施設整備に関する個別相談など、多岐にわたる支援を行っている(図表2)。

図表2 農業農村情報通信環境整備準備会(官民連携の推進組織)の概要

図表2 農業農村情報通信環境整備準備会(官民連携の推進組織)の概要

「個別地区支援」は、施設整備の具体化プロセスに入っている自治体などを対象に実施されているものだ。

個別地区支援では、まず支援を希望する団体がオンラインでICTを使って解決を望む地域の課題をプレゼンテーションする。

これを受け、その解決手段に成り得るソリューションを持つ企業が支援チームを結成してニーズを具現化。これを情報通信環境の整備を含む「概略構想」にまとめ、補助金の利用につなげていく。支援制度の一環であるため、地区には費用の負担はない。

2022年度までは、対象地域とのミーティングは、基本的にオンラインで実施、サポート会員が現地に出向く場合は費用を自ら負担していたが、2023年度から旅費を準備会が支援する形となり、さらに効果的な支援が可能となった。

これらの取り組みを通じて、自治体が整備を進めるうえでのネックも見えてきているという。その1つに運用コストの負担をどうするかがある。

坂氏は、「先進自治体の1つ、北海道岩見沢市では、設備を継続的に運用するため、医療、教育、防災など多様な用途に設備を活用し、それらから対価を得られる仕組みを作られている。同様の取り組みを検討する地域も増えているが、こうした形を実現するための体制、役割分担などの検討に時間がかかることが分かってきた」という。

農林水産省は、2022度まで「農業農村インフラ管理の効率化・高度化」での利用を含むことを条件としていたこの支援制度を「スマート農業の実装」のみでも、利用できるようにした。これにより、センサーを活用した施設園芸の効率化、IEEE802.11ahを利用した害獣対策など、新しい用途での検討が活発になってきている。

坂氏は「2023年度中に青森県の地区が支援を受けた案件で初めて稼働予定。これを機に整備に弾みがつくのではないか」と期待をかける。

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