KDDI、KDDI総合研究所、住友電気工業、古河電気工業、米OFS Laboratoriesは2023年10月20日、標準的な光ファイバーと同じ250μmの光ファイバーの中に12個の独立したコアを高密度に配置した非結合12コア光ファイバーと、広帯域なO帯光ファイバー増幅器(以下、BDFA)を組み合わせることにより、伝送帯域幅115.2THz(従来のC帯に比べて約24倍)の超広帯域伝送実験に成功したと発表した伝送容量484Tbps、伝送距離31km)。標準光ファイバー径の光ファイバー伝送実験では世界最大になるという。
今回の成果
6G時代のネットワークを支えるためには光ファイバー通信の容量をより拡大することが求められている。光ファイバー1本あたりの通信容量は、一般的に光の波長をわずかに変えて多重伝送する波長分割多重方式により、大容量化が可能だ。
これまで、KDDI総合研究所、住友電工、古河電工は1本の光ファイバーに複数のコアがあるマルチコア光ファイバーの実用化に向けた取り組みを進めてきた。また、KDDI総合研究所、古河電工、OFSは2023年3月に、新たにC帯やL帯の約2倍の伝送帯域があるO帯の活用に向けて、O帯コヒーレント高密度波長多重(DWDM)伝送実験を行い成功した。さらに、住友電工は2023年3月、高密度光ケーブルの実現に適した、標準的な光ファイバーと同じ250μmの太さの高密度非結合12コア光ファイバーを発表している。
O帯は、C帯に比べて波長分散の影響が小さいため、波長分散を補償するための信号処理負荷を軽減できるという特徴があるが、非線形光学効果により光信号の品質が劣化しやすいという難点がある。そのため、O帯は光ファイバー通信システムを大容量化するには不向きであるとされてきた。KDDI総合研究所は、光信号の送信パワーを最適化することで非線形光学効果を抑圧し、大容量伝送を可能にするO帯コヒーレントDWDM伝送技術を開発した。
双方向O帯コヒーレントDWDM伝送システムのイメージ図
光ファイバー通信の大容量化には、より多くの光信号を波長多重することが有効だが、そのためにはより広い波長帯域を増幅する光ファイバー増幅器が求められる。古河電工とOFSが開発したBDFAは、C帯とL帯を合わせた帯域よりも広いO帯全域にわたって光信号を増幅することが可能だ。本実験では、O帯のうち9.6THzにわたってコヒーレントDWDM信号を増幅したことにより、C+L帯に匹敵する超広帯域を実現できることを示した。
O帯ビスマス添加光ファイバー増幅器(BDFA)の構造
さらに、1本の光ファイバーの中に複数の光信号の通り道であるコアを配置するマルチコア光ファイバーを適用すれば、光ファイバー1本あたりの通信容量をコア数の分だけ拡大できる。住友電工は、C帯に比べてO帯の光信号がコアにより強く閉じ込められることに着目し、標準的な光ファイバーの外径である250μmの中に独立した12個のコアを高密度に集積配置した非結合12コア光ファイバーを開発した。
従来の光ファイバー(左)と12コア光ファイバー(右)のイメージ図
これらの3つの技術を組み合わせることで、光ファイバー1本あたりの利用可能な帯域の合計を115.2THzまで拡張できることを示し、その一例として484Tbps大容量伝送実験に成功した。これは、複数の波長帯域を組み合わせていない、単一の波長帯域の実証実験としては世界最大の帯域幅と通信容量になるという。
今後は、データセンター間通信容量の更なる大容量化を目指し、超広帯域O帯コヒーレントDWDM伝送システムの実用化に向けて、送受信機や光ファイバー増幅器、ならびにデジタル信号処理アルゴリズムの研究開発を進めていくとしている。