情報通信研究機構(NICT) Beyond5G研究開発推進ユニット長
テラヘルツ研究センター長(兼務) 寳迫巌氏
――Beyond 5G/6Gではどんな変化が起きますか。
寳迫 4Gや5Gまでは基本的にテレコム会社のみでやってきました。
しかし、Beyond 5G/6Gでは、いろいろなところにあるリソースを上手に協調動作させるための仕組みを導入する必要があり、1つの会社、1つの組織、1つの国といった形だけでは作り切ることが難しいと考えています。
NICTが今年3月に発行した「Beyond 5G/6G ホワイトペーパー第3版」では、Beyond 5G/6Gの機能アーキテクチャを図表のように示しています。
図表 オープンプラットフォームとしてのBeyond 5G/6Gの機能アーキテクチャ
Beyond 5G/6Gの時代には、様々なリソースがサイバー空間にもフィジカル空間にも存在します。こうしたリソースを調整する機能がオーケストレーターです。
現在の通信システムにもオーケストレーターは入っていますが、Beyond5G/6Gで求められるのは、そうした狭い意味でのオーケストレーターではありません。我々は「クロスインダストリーなオーケストレーター」と呼んでいますが、様々な産業に跨って張り巡らされるオーケストレーターです。
オーケストレーターの上には、さらにサービスイネーブラーがあります。これはある種のミドルウェアとして働く共通機能群です。
もう1つBeyond 5G/6Gの大きな特徴としては、フィジカル空間が挙げられます。宇宙や海洋を含んだ全地球的/多層的なネットワークがBeyond 5G/6Gです。5Gを単に拡張した、テレコム会社中心のネットワークではありません。
価値の形成はフィジカル空間のみで決まらず、サイバー空間も加えたサイバーフィジカルシステム(CPS)が重要になることも意識する必要があります。
――Beyond 5G/6GがCPSを支える役割を担うには、アーキテクチャから変わる必要があるのですね。
寳迫 なかでも非常に重要なのが、クロスインダストリーのオーケストレーターです。これにより、余っているリソースの多種多様な組み合わせが生じて、今は実現できていない“先の世界”へと進むことができます。
例えば、夜間の活動量は通常下がるため、ピークとなる昼間の活動量に合わせて用意された様々なリソースが余ります。
しかし、地球の裏側は、活動量の多い昼間です。国を跨いで、余ったリソースを上手に使えるようになる、といったことを考えています。
また、アメリカなどでは、スタジアムには大体クルマで行きます。クルマには電源、CPU、メモリー、センサーといったリソースが載っていて通信もできますが、今はこうしたリソースが駐車場に放っておかれています。
最近のスタジアムでは、直前のプレイを手元で別角度から観られるサービスなどが提供されていますが、そのためのサーバー設備をスタジアムに用意しておくのではなく、駐車場にあるリソースを活用するといったことも実現できるかもしれません。
他にも、今の基地局はずっと電源が入りっ放しだと思いますが、人の分布に応じて、必要な基地局の電源だけをオンにすることもできるのではないかなどと考えています。
――確かに、こうなるとテレコムだけの世界ではありません。
寳迫 Beyond 5G/6Gというと、これまでフィジカル空間のワイヤレスコミュニケーションと多少のコアネットワークに関する話が主でした。しかし、私はこうしたことまで含んで議論する必要があると常々言っていて、最近は若干伝わり始めた手応えを掴んでいます。
IOWN Global Forumにも、このアーキテクチャについての文書をインプットしてきています。また、海外で話しても「いいね」と評価してもらえるようになってきました。
自社の余剰能力を開放することで、従来なら設備が休眠していた時間も稼いでくれるわけですから、いろいろな既存のプレイヤーにとって良い話です。また、つながる企業が増えれば増えるほど、使える個別機能の種類は多くなり、機能の組み合わせの数が幾何級数的に増大していきます。新しいサービスを次々と生み出す土壌が、この仕組みによってできるのです。