近年、メディアでも取り上げられる機会が増えてきた「2024年問題」。2024年4月施行予定の働き方改革関連法に伴い、トラックドライバーの時間外労働時間が1年当たり960時間に制限され、“モノが運べなくなる”と危惧されている問題だ。野村総合研究所によると、この2024年問題の影響でドライバー不足が深刻化し、2030年には日本国内の35%の荷物が運べなくなると予測されている(図表1)。
図表1 需要に対する供給の割合(ドライバーベース)
2024年問題解決の糸口の1つとなるのがIoTだが、「日本の物流は欧米と比べ、IoTを含めた『情報化』が相当遅れている」と流通経済大学 教授の矢野裕児氏は警鐘を鳴らす。
日本の物流IoTが進んでいない原因は、日本独自の流通構造にあるという。欧米の流通構造は、メーカーと小売が直接取引するケースが多く、メーカーと小売間で情報共有できれば効率化を図りやすい。一方で、日本の場合、メーカーと小売の間に卸業者が存在するうえ、メーカーと小売の数も多いため、「情報共有が難しく、IoT化もなかなか進まない」(矢野氏)という。
流通経済大学 教授 矢野裕児氏
サプライチェーン全体の効率化を
さらに矢野氏は、「物流の効率を悪くしているのは、物流事業者以上に荷主企業だ。発荷主と着荷主も含めて情報化を進めない限り、効率化しない」と話す。つまり、サプライチェーン全体で効率化を図るべきだというのが、矢野氏の指摘だ。
商品の製造から物流、販売までを自社で行うSPA(製造小売業)企業は、IoTを導入しやすいという。ファーストリテイリングやニトリなどが、SPAの代表的な企業として知られている。ファーストリテイリングは2018年以降、全商品にRFID(無線タグ)を貼付している(図表2)。RFID導入により、今まで値札のバーコードを1つ1つスキャンして行っていた在庫管理が、専用のリーダー機で一括読み取りで行えるようになった。商品の入ったカゴを指定の場所に置くと、商品の個数と金額を瞬時に算出できるため、レジでの精算時間短縮にもつながる。物流面でも、ファーストリテイリングは同年、東京・有明に大型物流センターを新設しているが、RFIDによる自動検品率100%を実現したことで、物流センター内の人員を9割削減させることに成功した。「サプライチェーンを1社でコントロールできる企業は、IoT化の効果を出しやすい」(矢野氏)。
図表2 ファーストリテイリング RFID導入事例
ただ、全ての企業がSPA型のビジネスモデルを構築するのは無理がある。そこで矢野氏は、「狭い領域でのサプライチェーン」効率化を提案する。例えばアサヒビールは、ビール用炭酸ガスボンベにRFIDを導入している。これまでは、炭酸ガス充填業者がビール会社を経由して酒販店にガスボンベを納品し、アサヒビールの物流拠点でガスボンベ1本1本の情報を手書きで管理していた。RFIDを導入したことで、アサヒビールと炭酸ガス充填業者間でガスボンベに関する情報共有が可能になり、炭酸ガス充填業者から酒販店へガスボンベを直接納品できるようになったという。効率的な回収ルートを確立し、出荷から回収までの期間短縮を図る取り組みだ。
ファミリーマートやセブン-イレブンなどのコンビニ各社が、2025年までに全ての取り扱い商品にRFIDを貼り付けて管理する「コンビニ電子タグ1000億枚宣言」を掲げているが、「商品1個1個にRFIDをつけるといったIoTは厳しいのではないか」と矢野氏。一方で、JR貨物はコンテナ単位にRFIDを取り付けて管理している。矢野氏は、「物流においても、通い箱レベルのIoTはそんなに難しくない。パレットや通い箱は企業側に戻ってくる場合も多いので、こういった循環型の世界でのIoTは進む可能性がある」と語る。
近年のRFIDは、読み取り精度が向上しているうえ、低価格化も進んでいる。ただ、IoTと言った途端に拒否反応を示す物流関係者も多いという。矢野氏は、「『デジタルなんて無理』と思わずに、小さいところからIoTを実践してみて、IoTの便利さを理解してもらいたい」と期待を寄せる。