FCC「国家ブロードバンド計画」を読み解く――“世界最高”目指す米国の戦略

世界最高のブロードバンドの実現に向け、米国が本格的に動き始めた。モバイルへの500MHzの周波数割当など、野心的かつ包括的な中身を持った「国家ブロードバンド計画」の要点を解説する。

3月16日、米国連邦通信委員会(FCC)は、「国家ブロードバンド計画」を連邦議会に提出した。これは、オバマ大統領が唱える「すべてのアメリカ人に21世紀のブロードバンドへのアクセスを」という理念を実現すべく、経済刺激策として2009年2月に施行された米国再生・再投資法(ARRA)の規定により議会への提出が義務付けられていたものである。オバマ大統領は即日、ジュリアス・ジェナカウスキーFCC委員長らの努力を賞賛する声明を発表している。

オバマ大統領の理念の原点は、米国がこの分野で世界に後れをとっている現状を打開することにあった。それを受けて、計画に掲げられた6つの目標は、2020年までに世界最高レベルを目指す野心的なものとなった。

計画はまた、これらの目標の実現と医療、教育、エネルギー・環境、経済機会、政府活動、市民参加、公共安全・国土安全保障といった広範な国家目的に向けて、200を超える勧告を打ち出す包括的なものとなった。立法を要したりFCC以外の省庁の所管にわたる部分も多いが、FCCは、キーポイントは自らの所管内に収め、ジェナカウスキー委員長はその実施に意欲を見せている。ただ、重要部分で主要事業者や共和党の反発も大きく、今後大きな困難に際会することも必至だ。

本稿では、この計画の基軸となる野心的な目標から特に2つの方向性に着目し、オバマ政権が何を目指しており、そこにどんな挑戦が待っているのかを見てみたい。

「裾野」は広く

「すべてのアメリカ人に」という打ち出しが示すように、ARRAが計画に求める最優先課題は、ナショナルミニマムを世界最高水準に底上げすることだ。これを受け、計画では、「すべてのアメリカ人は、堅固なブロードバンドサービスへの手ごろな料金によるアクセスを持つべき」という目標が掲げられた。米国のどの地域でも低廉な料金でアクセスできるようにブロードバンドの「裾野」の拡大を行うというのである。

より具体的には、これの達成手段と関連付けて記述がなされている。すなわち、インタラクティブなアプリケーションでも十分な品質で、実測ベースでダウンロード4Mbps、アップロード1Mbpsの伝送速度によるユニバーサルなブロードバンドを実現すべく、現在電話サービスの支援に使っているユニバーサルサービス基金(USF)制度を改革するという。そして、ブロードバンドサービスを支援するコネクトアメリカ基金(CAF)を創設、ここに最大で110億ドルを移行していくことを勧告している。

このターゲット設定に当たりFCCは、各国で設定されている政策目標の吟味を1月から行った。各国の中には、豪州のように12Mbpsという野心的な目標を掲げる国もある。これに対し、今般のFCCのターゲットは、実測ベースでの実現目標であり、世界をリードするものとなっているとFCCでは述べている(図表1)。

図表1 各国のユニバーサルなブロードバンドサービスの目標
各国のユニバーサルなブロードバンドサービスの目標

計画では、モバイルブロードバンドの底上げも狙い、第3世代携帯電話(3G)の普及で各州が全国平均から大きく後れることがないようにするためのモビリティ基金を創設、USFから約40億ドルを移行させることを勧告している。これは、3G普及が、LTEやWiMAX普及の下地となると見ているからである。

ここで掲げた目標の達成とデジタルリテラシーの改善により、実際のサービス利用も増進すると計画では述べている。FCCでは、2009年に行った調査結果を2月23日に公表、米国におけるブロードバンドの実利用は成人の65%としているが、上記目標が達成されると、これが20年までに90%を超えるだろうというのである。

こういった「裾野」拡大に向けたUSF改革について、計画では3つのステージに分けたスケジュールの大枠を示しており(図表2)、その方向性については、昨年ARRAで投入されることとされた支援金額が72億ドルにとどまったこともあり、民主・共和両党で広く支持を得ている。

図表2 ユニバーサルサービス制度改革の概要
ユニバーサルサービス制度改革の概要

月刊テレコミュニケーション2010年5月号から転載(記事の内容は雑誌掲載当時のもので、現在では異なる場合があります)

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