仮想化オープンRANで乗り越えるべき壁とは
庄納 一方で、オープンRANを実現する上で様々なチャレンジがあると思いますが、どのような点でしょうか。
安部田 一番大きなチャレンジと言えるのはインテグレーション、インターオペラビリティです。一般的なオペレーターはこれまで、異なるベンダーの製品との接続検証を行う必要はありませんでした。オープンRAN、vRANはそこが違います。特にvRANは様々なベンダーの製品を組み合わせて作ることになりますが、このインテグレーションを自前でできるオペレーターは少ない。これを効率化するためのサポートが重要だと考えています。
もう1つ、vRANを商用化した後にも課題があります。組み合わせる製品それぞれのアップデートサイクルが異なるので、1つの製品がアップデートする都度、他とのインターオペラビリティを検証しなければなりません。これには非常に大きなコストがかかります。
この2つを解決することがOREXの目的です。vRAN構築と接続検証をいかに簡素化するか、そして、それを他のオペレーターといかに共有するかです。
NTTドコモ OREXエバンジェリストの安部田貞行氏
ドコモとしてはまず、我々が行ってきたインターオペラビリティテストの結果やインテグレーションのノウハウ等を共有化します。また、我々の施設も、みなさんに使っていただきます。そうすれば、各オペレーターが個別に検証等をする必要はなくなり、共通化することでコストも時間も能力自体も不要になります。
アップデートサイクルもOREXパートナーであるベンダー間で調整することで、オペレーターには見えないようにすることが可能です。例えば、半年に一度のサイクルだけケアすればよい、といったかたちにできるでしょう。こうしたエコシステムを作ることで先ほど述べたような課題は隠蔽できて、オープンRANのメリットをより簡単に享受できると考えています。
オープンRANとvRANでTCOは下がる?
庄納 オープンRANやvRANのその他のメリットとしては、従来のトラディショナルRANに比べてコストを下げられるという点もあると思います。この点はどう評価されていますか。
安部田 正直に言って、TCOがガクンと下がるかというと、あまり下がらない。他のオペレーターからはそうした声をよく聞きます。
その要因は、vRANでは性能が出ないのでハードウェアの数が結局増えてしまうこと。また、インテグレーションやインターオペラビリティテストの部分でどの程度の工数がかかるのかが不透明だということがあります。TCOが下がる部分と、逆に上がる部分がどれほどなのか。多くのオペレーターにとって、そこが明確でないことが課題です。
しかし、性能が上がれば、より少ないハードウェアリソースで提供できるようになり、CAPEXは下がります。インテグレーションやインターオペラビリティの部分も、我々に任せていただいたり、シェアすることで、例えば5社でシェアすれば5分の1になり、この部分でもCAPEXは下がります。
オペレーションについても、先ほど述べたようにライフサイクルマネジメントでかかる工数が減ればOPEXは下がります。実際にオープンRANをやっている我々の見込みでは、TCOは確実に下げられます。
海外キャリアのメリット
ドコモの経験とノウハウを共有
庄納 この取り組みをドコモが行う意義、他のオペレーターにはできないドコモの強みとは何でしょうか。
安部田 我々はベンダーニュートラルなかたちでオープンRANを導入してきました。なんら依存性のない状態で、オペレーターが望むもの、例えば、彼らの既存システムに最もフィットするものを提案できます。ドコモ自身、グリーンフィールドにも、既存資産があるブラウンフィールドにも使ってきた経験を持っていますから。
また、マルチベンダーで様々なデプロイメントを行ってきたことも強みです。東京のような環境で、複数の周波数を組み合わせてマルチベンダーで動かしたり、あるいは商業施設内、ルーラル地域と多様な経験を持っています。ベンダーとのしがらみなく、良いソリューションがあればすぐに使うことができます。
ウインドリバー 執行役員 通信キャリア営業本部 本部長の庄納崇氏
庄納 OREXの枠組みで海外のオペレーターのオープンRAN導入を支援する際、ドコモはシステムインテグレーションや導入の際の技術サポートなどを担うことになるのでしょうか。
安部田 我々がフロントに立つプロジェクトでは、ドコモがシングルアカウントで受け、組み上げたものを提供していくことになるでしょう。ただし、インテグレーションと言ってもその幅は非常に広いので、パートナーにお任せする部分も当然あります。
vRANのインテグレーションのように世界中で方法を共通化できるものは、まとめてやったほうが絶対に効率がよいので、インテグレーションされたものを海外に持っていくほうがよいでしょう。一方、オペレーターごとに異なるOSS(オペレーションサポートシステム)やBSS(ビジネスサポートシステム)とのインテグレーションは、そのオペレーターのローカルパートナーと協力して提供するほうがコスト的にもお客様的にもよいかもしれません。そうしたところは、お客様ごとにベストな組み方でやっていきます。