ゴールは「会話型AI」
このようなAIと人間の役割分担が進むなかで、両者のコミュニケーションも今後大きく変わる。鍵になるのが生成AIだ。上田氏は「会話型になる。ダッシュボードで情報を確認し、問題を探していくこともできるが、お客様が最終的に求めるのは、会話型AIだろう」と展望する。
例えば、「unhappyなユーザーは?」と聞けば、通信品質に問題のある社員のリストを表示。電波干渉やケーブルの接続不良といった原因と、「コンフィグを変更する」「APを変える」等の対処法を教えてくれる。Mist AIはこうした対話型の仮想アシスタント「Marvis」をすでに実用化(下の画像)。問題発生時に自動的にパケットキャプチャーした解析結果を教えてくれたりもする。
MIst AIのダッシュボード画面(日本語対応は現在、ベータ版)と、対話型インタフェースのMarvis。「list unhappy users」とチャットでリクエストすると、そのユーザーを表示。出てくる項目を選択していくと、さらに詳細な情報にたどり着ける
ただし、現時点でのMarvisは生成AIをバックエンドで連携してUI表示させているのみで、MarvisとChatGPTを目的別に使い分けている。上記のような解析結果の表示や対処法の提案にMarvisを使い、「ChatGPTは、コンフィグのやり方をはじめ、公開しているテクニカル情報をサマリーして自然言語で返すのに使っている」。ユーザー企業のネットワークから出る膨大な情報をChatGPTに読ませるのには、セキュリティリスクがまだ大きいことが、その理由だ。
人間にとっての“分かりやすさ”という点で、MarvisはChatGPTに及ばない。だが一方で、ZoomやMicrosoft Teams等のアプリケーション情報もAPI経由でMist AIに取り込むことで、データ解析と情報表示の範囲を広げるなど進化を続けている。
そして将来的には、「エンドユーザーの詳細な情報も、ChatGPTが自然言語で教えてくれるようにする」計画だ。まるで人間同士が会話するように、問題の在り処と原因、対処法をピンポイントで答え、必要な処置まで自動で行ってくれる理想的な仮想アシスタントが登場する日も、そう遠くないかもしれない。
ネットワーク業界には、この新時代への備えが求められる。人間の役割は「何を知るか」から、AIが教えてくれたことに対して「どう行動するか」へとシフトする─。あらゆる業界で起こるであろうこの変革に対応するため、1日も早く準備を始める必要があろう。